福岡大学×プラスチック工学研究所、「樹脂溜まり」押出機でリサイクル材の物性をバージン並みに再生
福岡大学の八尾滋教授らは、リサイクルプラスチックの物性低下の主要因が「化学劣化」ではなく「物理劣化」であることを学術的に解明し、押出機先端にせん断のかからない「樹脂溜まり」を設けることでバージン材並みの物性再生ができる独自技術を確立した。特許化・製品化済みで、自動車部品からリチウムイオン電池セパレーターまで応用が広がっている。
- 何が起きたか
- 福岡大学 八尾滋教授・冨永亜矢氏は2018年、廃棄物資源循環学会誌にリサイクルプラスチックの物性低下メカニズムの解明と、押出機に「樹脂溜まり」を設ける物理再生手法を発表。その後、日産自動車との共同研究(2017年6月~2021年3月)でASR(自動車破砕残渣)回収プラスチックへの応用を実証し、プラスチック工学研究所(PLABOR)が特許第6608306号として製品化した。
- 技術的なポイント
- リサイクルプラスチックの力学物性低下は、高分子鎖が切断される「化学劣化」ではなく、成形履歴による内部構造変化(結晶ラメラ間のタイ分子の減少)という「物理劣化」が主因。押出機吐出口前にせん断のかからない樹脂溜まりを設けることで、絡み合いの多い構造を再形成し、バージン材並みの物性まで再生できる。
- 開発段階
- 普及開始過程(特許化・製品化済み)
- 情報源種別
- 1次情報
背景・概要
事実福岡大学工学部の八尾滋教授(現・機能構造マテリアル研究所教授・所長)と冨永亜矢氏は、廃棄物資源循環学会誌Vol.29 No.2(2018年、pp.116-124)に論文「プラスチックマテリアルリサイクルに関する新しい技術展開」を発表した(原稿受付2018年1月26日)。
事実論文の主旨は、マテリアルリサイクルされたプラスチックの力学物性(特に靭性)が著しく低下する原因は、従来考えられてきた「高分子鎖の破断を伴う化学劣化」ではなく、「内部構造変化による物理劣化」であること、また成形法を選択することでバージン材とほぼ同等の物性値まで再生できることを実証したものである。
技術的な詳細
事実実験では、バージンポリプロピレン(VPP)と、一度成形を経たプレコンシューマーポリプロピレン(Pre-RPP)の分子量・分子量分布・密度を比較したところ、両者はほぼ同一であり、Pre-RPPは化学劣化していないことが確認された。それにもかかわらず、通常の成形条件(210℃・2分・徐冷)で作成したPre-RPP薄膜は著しく脆性を示した。
事実一方、成形条件を250℃・10分・急冷に変更すると、Pre-RPP薄膜は延性を示すだけでなく、降伏応力・破断応力ともにバージン材(VPP)を上回る結果が得られた。X線小角散乱(SAXS)測定により、結晶ラメラ間の「タイ分子」の量が破断エネルギー(靭性)を左右するメカニズムが示された。
事実さらに、通常の2軸押出機の吐出口前に、溶融した樹脂を滞留させる「樹脂溜まり」を設けた押出機を試作し、非選別の廃棄容器包装リサイクルプラスチック(ポリエチレン約50%混入)で再ペレタイズ実験を行った結果、樹脂溜まりのない場合は射出成形品の引張伸びがペレタイズ条件により114.0mmから42.9mmまで大きく変動したのに対し、樹脂溜まりを設置した場合は全平均127.4mmと高い値で安定した(最も高い条件と低い条件の差は62.3mm)。
分析この結果は、樹脂溜まりが押出機による剪断履歴を緩和し、ペレタイズ条件への依存性を著しく小さくすることを示している。「リサイクル材は化学劣化により物性が戻らない」という業界の通念に対し、物理劣化(内部構造変化)が主因であり、成形条件・装置設計によって物性回復が可能という基礎研究に立脚している点が、本技術の学術的な裏付けの強さを示している。
開発段階・実証/導入状況
事実福岡大学は日産自動車材料技術部と、2017年6月~2021年3月にかけて「ASR回収プラスチックのアップグレードリサイクル技術研究」を共同で実施した。ASR(自動車破砕残渣)発生量の削減を目的に、樹脂溜まりを持つ専用押出機によるASR回収プラスチック(PP)の物性回復効果を検証したもので、2019年度の検証では、樹脂溜まり有りの場合に衝撃強度・伸びの物性向上が確認され、バージン材と遜色ない物性レベルまで改質できることが確認された。フィード速度(混錬時の押出速度)が速いと物性が低下することや、ASRに含まれる顔料の色調・種類がリサイクルプラスチックの物性に影響を与えることも明らかにされた。
事実本技術はプラスチック工学研究所(PLABOR)により特許第6608306号「樹脂組成物成形機および樹脂組成物の成形方法」として特許化され、「スーパーハイトルク型二軸押出機 SXBTN-シリーズ」として製品化されている。用途としてEV・HV用リチウムイオン電池セパレーターフィルムや再生プラスチックペレット製造が挙げられている。PLABORの技術資料では、容器包装リサイクルPEを用いた特性評価において、樹脂溜まり有りの成形では靭性がバージン並みに向上し弾性もより高くなること、原子間力顕微鏡(AFM)による結晶構造解析でも捻じれた構造が規則正しく配列した構造に変異していることが示されており、参考文献としてAppl. Sci. 2021, 11, 1707(DOI: 10.3390/app11041707)が挙げられている。
分析基礎研究論文の公表は2018年だが、日産自動車との応用研究(~2021年3月)およびAppl. Sci.誌への論文掲載(2021年)、PLABORによる特許取得済み製品としての展開まで確認できることから、特許化・製品化済みの「普及開始過程」と判定した。
この動きの位置づけと今後の注目点
分析本技術が重要なのは、「リサイクル材は物性が戻らない」という業界の長年の通念に対し、大学発の基礎研究によって物理劣化・物理再生の理論的裏付けを与え、それを実際の押出機の装置設計(樹脂溜まり)に落とし込み、さらに特許・製品として実用化した、産学連携の一貫したストーリーを一次情報で追跡できる点である。
分析応用範囲も、自動車部品(日産自動車のASRプラスチック)からリチウムイオン電池セパレーターまで広がっており、押出加工の装置要素(スクリュー先端の構造)の工夫だけで、幅広い樹脂種・用途に展開できる汎用性の高さがうかがえる。
分析今後は、樹脂溜まり技術の量産スケールアップの進捗(NEDOの国家プロジェクトでも本技術を土台にした異物除去機構改良等の開発促進財源投入が確認されている)、単軸押出機への展開状況、対応樹脂種の拡大を注視したい。
実務への示唆
分析商社にとっては、「樹脂溜まり」技術を採用した押出機で製造された再生ペレットは、物性の安定性(成形条件依存性の低さ)を訴求材料にできる可能性がある。原料調達先の設備投資状況(樹脂溜まり付き押出機の導入有無)を、品質評価基準の一つとして把握しておく価値がある。また、化学劣化ではなく物理劣化が主因であるという知見は、リサイクル材の物性評価やクレーム対応における技術的な説明材料としても有用である。
📎 一次情報・出典
八尾滋・冨永亜矢「プラスチックマテリアルリサイクルに関する新しい技術展開」廃棄物資源循環学会誌 Vol.29 No.2 pp.116-124(2018) →日産自動車 サステナビリティレポート「福岡大学との共同研究」(2017/6~2021/3) →プラスチック工学研究所(PLABOR)技術資料(特許第6608306号) →イプロス「スーパーハイトルク型二軸押出機 SXBTN-シリーズ」製品ページ →押出・造粒設備の選定でお悩みですか?
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