本記事では、一次情報で確認できた事実に 事実、報道が伝えている内容に 報道、筆者の解釈・推測に 分析 を付けています。英語・フランス語資料からの引用はいずれも拙訳であり、公定訳ではありません。

先に、用語をそろえておきませんか?

本記事で使う用語
ELVEnd-of-Life Vehicle。使用済みになった自動車のこと。本記事では「廃車」とも書く
型式認証自動車を市場に出す前に、車種(型式)ごとに基準適合を確認して受ける承認。EUでは規則(EU) 2018/858が定める
ポストコンシューマー廃棄物消費者や事業者が実際に使い終わって出した廃棄物。工場で出る端材(プレコンシューマー)とは区別される
クローズドループ同じ用途に戻す循環。廃車の樹脂を再び自動車の樹脂に使うのがこれにあたる
マスバランス再生原料と化石原料が工程で混ざる場合に、投入量の比率に応じて「再生材由来」を製品へ割り当てる会計方法
エラストマーゴムのように伸び縮みする高分子材料の総称。タイヤやシール部品に使われる。熱を加えれば再び成形できる熱可塑性エラストマー(TPE)もある
熱硬化性樹脂一度固めると加熱しても再び溶けない樹脂。分子どうしが橋渡しされているためで、溶かして作り直す機械式リサイクルには向かない
生産者責任組織拡大生産者責任(製品の廃棄段階まで生産者が責任と費用を負う仕組み)のもとで、複数の生産者から委託を受けて回収・処理の義務を代行する団体
シュレッダー残渣廃車を破砕して金属を回収した後に残る混合物。樹脂・繊維・ゴム・ガラスなどが混ざっており、ASRとも呼ばれる
実施法令/委任法令EUの下位法令。実施法令は本体規則の実施方法を定めるもの、委任法令は本体規則の非本質的部分を補ったり改正したりできるもの
解重合樹脂の分子鎖を切って、原料の単量体(モノマー)まで戻す処理。ケミカルリサイクルの手法の一つ
カプロラクタムナイロン6(PA6)の原料となるモノマー
ドロップイン既存の設備・処方・認定をそのまま使える、置き換え可能な原料のこと
附属書(Annex)規則本文の後ろに付く別表。条文が参照する具体的な要件・基準が書かれている

そもそも9月14日に何が動き出すのか?

この規則は、いつ発効して、いつから本体が適用されるのか?

事実規則(EU) 2026/1738は2026年7月8日に採択され、同年7月24日にEU官報L系列に公布された。正式名称は「車両設計に関する循環性要件および使用済み自動車の管理に関する規則」である。

事実この規則は、従来の2本の指令を廃止して一本に統合するものだ。廃止されるのは使用済み自動車指令(2000/53/EC)と3R型式認証指令(2005/64/EC)である。指令ではなく規則なので、加盟国が国内法に移し替える手続きを経ずに直接適用される。

事実第59条1項は「官報公布の翌日から20日目に発効する」と定める。公布日が7月24日なので、発効日は2026年8月13日にあたる。欧州委員会の8月12日付ニュースも発効日を8月13日としている。

事実第59条2項は「本規則は2028年9月1日から適用する」としつつ、そのあとに例外の列挙を置いている。そこに第6条4〜9項が入っており、これらは2026年9月14日から適用される。(第59条2項は「第6条11項」も列挙しているが、公布された第6条は第9項までで、第11項は存在しない。条番号のずれと見られる。)第4条3項、第5条2〜9項なども同じ日付だ。

では、9月14日に義務が発生するのか?

分析この日に企業へ新しい義務が課されるわけではない。9月14日に適用開始となる第6条4〜9項は、その大半が欧州委員会に対する宿題である。委員会が下位法令をつくる権限と、期限付きの評価・報告義務を定めた条項が並んでいる。

事実たとえば第6条5項は、計算・検証の方法を定める実施法令を2028年8月31日までに採択せよと委員会に命じている。第4項の第2段落も同じ形だ。世界貿易とEUのリサイクル産業・自動車産業への影響を2028年9月30日までに評価し、欧州議会と理事会に報告せよとしている。

分析それでもこの日付が読者にとって意味を持つのは、ルールづくりの時計が正式に動き出す日だからだ。含有率そのものの義務は2032年9月の型式認証からで、まだ6年ある。しかし、その義務をどう計算し、誰の材料を数えてよいかを決める作業は、この9月から2028年8月までの約2年間に行われる。意見を出せる場があるとすれば、そこである。

ELV規則の主な日付(すべて条文本文から確認。カッコ内は該当条項)
日付内容
2026-07-24EU官報L系列に公布(2026/1738)
2026-08-13発効(第59条1項=公布の翌日から20日目)
2026-09-14第6条4〜9項、第4条3項、第5条2〜9項ほかが適用開始(第59条2項)。★同項は「第6条11項」も挙げるが、公布された第6条は第9項で終わっており、第10項・第11項は存在しない。条番号のずれと見られる
2027-09-30鉄鋼・アルミの再生材最低比率の実現可能性を委員会が評価する期限(第6条7項・8項)
2028-08-31樹脂の再生材比率の計算・検証方法を定める実施法令の採択期限(第6条5項)
2028-09-01本体の適用開始(第59条2項)
2028-09-30第6条4項の世界貿易・産業への影響評価の報告期限(第6条4項第2段落)
2029-09-01シュレッダー重質・軽質残渣のうち非不活性廃棄物を含むものの埋立制限が開始(第34条。附属書VIII Part Gの限度値超過分)
2030-01-01再使用・回収95%、再使用・リサイクル85%の目標が本規則の下で適用。いずれも車両平均重量ベースで、バッテリーを除く(第33条1項)
2030-08-14第三国の施設で再生された材料の算入が可能になる(第6条4項(b))。附属書XIIIの要件と、附属書XIVに基づく第三者監査の要件も同日から適用(第6条5項第4段落)
2031-08-14再生材目標の達成見通しを委員会が評価する期限。メーカーの申告(第10条)に基づく(第56条6項)
2032-01-01廃車に含まれる樹脂の30%以上という年次のリサイクル目標が適用。加盟国が生産者・生産者責任組織を通じて、廃棄物処理事業者による達成を確保する(第33条2項)
2032-09-01この日以降に型式認証を受ける新型式に、樹脂の15%以上の再生材が必要(第6条1項)
2036-09-01同じ要件が25%以上に上がる(第6条1項)

いちばん重い論点は「どこで再生したか」ではないか?

第6条4項は、実際に何と書いてあるのか?

事実第6条4項は、第1〜3項の義務を果たすための再生材について、こう定めている。対象はポストコンシューマー廃棄物から回収されたものに限られる。そのうえで、リサイクルされた場所が(a) EU域内に所在する施設であることが原則となる。または (b) 2030年8月14日以降は、附属書XIIIの要件を満たす第三国に所在する施設でもよい。

分析ここが9月8日号で扱った包装規則(PPWR、規則(EU) 2025/40)との書き方の違いである。PPWR第7条3項は、条文の最初から第三国での回収・再生を「同等の基準に従っていれば」認めている。所在地で場合分けをしたうえで日付を付ける、という書き方はしていない。

分析ELV規則の第6条4項は、条文の並びとしては域内を(a)に置き、第三国を(b)に置いて日付を付けた。ただしこれを「域内に閉じてから開く」と読むのは、条文の文言だけを見た読みである。前文はまったく別の説明をしている。

事実前文第28項は、自動車分野のグローバルバリューチェーンの重要性を認めたうえで、「本規則は、EU域外からの二次原料の調達を認めるべきである」と明記している。

事実前文第30項は立法者の意図をはっきり書いている。再生材の入手方法が環境面の便益を打ち消さないようにするための担保が要る、としたうえで、その担保は「域内で製造された再生プラスチックと輸入された再生プラスチックの双方について、非差別的な方法で」設けられるべきだとしている。そして目標に算入されるためには、「リサイクル工程がEU域内で行われるか域外で行われるかにかかわらず」、人の健康・気候・環境の保護に関して同等の条件に服すべきだと明記している。

事実そのうえで前文第31項は、「第三国でリサイクルされた材料に適用される条件は、監査要件を含め、2030年8月14日からのみ適用されるべきである」としている。あわせて欧州委員会は、市場の状況と貿易関係の推移に照らして、その条件がもたらす影響をより包括的に評価し、報告すべきだとしている。

分析つまり前文が言っているのは、「2030年8月14日から域外材料が入れる」ではなく、「域外材料に課す条件と監査が、その日から効き始める」である。第6条4項(b)の文言とは、力点の置き方が違う。本記事はこの2つの読みのどちらか一方を正しいと決める立場にない。実務上どちらで運用されるかは、2028年8月までに出る実施法令が決める。

分析ただし、どちらの読みでも実務的な結論はほぼ同じになる。含有率の義務が始まるのは2032年9月1日で、条件の適用開始(2030年8月14日)はその2年余り前にくる。日本の材料が「義務があるのに締め出される」という期間は、条文上は生じない。残るのは、附属書XIIIの要件を満たし、附属書XIVに基づく監査を受けられるかどうかという条件の問題である。

分析したがって、この規則を「日本を締め出すもの」と読むのは正確ではない。附属書XIIIが求めているのも「EU域内であること」ではなく「EU法と同等であること」だ。分岐があるとすれば、「いずれ開くのだから待てばよい」と読むか、「条件が効き始めたときに動けるよう準備する」と読むかである。この4年の使い方は、そこで変わる。

域外材料の扱い:ELV規則とPPWRの書き方の違い(いずれも条文本文から確認)
論点ELV規則((EU) 2026/1738)PPWR((EU) 2025/40)
域外材料の位置づけ第6条4項(b)=2030年8月14日以降に限って算入可第7条3項=当初から同等性を条件に算入可
条件の単位施設単位(附属書XIII Part A・Part B)+出所となる国の枠組み(Part A 3項)回収の基準と施設の排出規制。第10項で第三国の同等性の方法論を別に定める
第三者検証第6条5項=第三国施設は5年に1回以上、独立第三者の監査(附属書XIV)第8項の第三者監査は域内の再生材製造者を対象とする。域外は第10項の方法論による
計算方法の下位法令実施法令を2028年8月31日までに採択(第6条5項)意見募集が9月16日締切、採択予定は2026年第4四半期

この表はELV規則とPPWRの「書き方」を並べたものであり、どちらが厳しいかを本記事が評価したものではない。対象製品も義務の主体も異なる(ELV規則は自動車メーカー、PPWRは包装の製造・充填事業者)。

2030年以降、日本の施設は何を満たすことになるのか?

事実附属書XIIIはPart AとPart Bに分かれている。Part Aは、人の健康・気候・環境の保護についてEU法と同等の要件を満たしていることを示す基準だ。8項目が並んでいる。

  • 事実廃棄物リサイクルの要件を満たし、環境保護に関する国内法令に従って活動していること
  • 事実安全かつ環境上適正に設計・建設・運転され、当該廃棄物をリサイクルするための工程・技術・組織・インフラを備えていること
  • 事実廃プラの調達元が、加盟国か、または環境保護と労働者の安全についてEU法と同等の基準に従う国であること
  • 事実労働者と近隣住民の健康・安全リスク、および環境への悪影響を予防・低減する管理・監視の仕組みを備えていること
  • 事実受け入れ・処理したすべての廃棄物の追跡可能性を確保し、残渣が認可施設にのみ引き渡されることを記録で示せること
  • 事実省エネと温室効果ガス排出の抑制の措置をとっていること
  • 事実直近5年分の廃棄物管理活動の記録を提示できること(操業5年未満の場合は操業期間分)
  • 事実運営者または経営陣が直近5年間、廃棄物管理に関わる違法行為で有罪判決を受けていないこと

事実Part Bは、第6条1〜3項への適合を示す基準である。2点ある。1点目は、ポストコンシューマー廃棄物由来の材料を製造していることを証明できること。プレコンシューマー材や新規原料も扱っている場合は、両者を明確に区別できることを示す必要がある。そのうえで、算入対象としてはポストコンシューマー由来のみを供給すると担保しなければならない。

事実2点目が重い。対象は、廃車や修理された車両から出たポストコンシューマー廃棄物を扱う施設である。この施設はその廃棄物が分別収集され、他の由来の材料と混ざっていないことを示せなければならない。しかもこの条件は2つの局面にかかる。「施設に到着する前」と「リサイクル工程の全体を通じて」の両方で、追跡可能性が失われるような混合が起きていないことが求められる。

分析この2点目は、第6条2項のクローズドループ枠(目標の20%以上)と対応している。廃車由来だと数えてもらうには、廃車から出たと追跡できる状態で工程を通す必要がある。混合フローの中から後から「これは廃車由来です」と主張する形は、この条文の下では難しいと読める。ただし機械式以外のリサイクルには第6条5項第2段落によりマスバランスが適用され、前文第29項も不均質な破砕自動車廃棄物を想定していると明記している。どこまでが「追跡可能性を失わせる混合」にあたるかは、実施法令の書きぶり次第である。

分析設備の観点でいえば、要求されているのは新しい処理技術ではない。ロットを分けて流せる構成と、工程ごとに投入量・産出量を記録できることである。装置単体の性能よりも、ラインの組み方と計量点の置き方の問題になる。

附属書XIIIが見ているのは「施設」だけなのか?

事実そうではない。Part Aの第3項は、廃プラの出所となる国についての基準を置いている。全領域を覆う包括的な廃棄物管理の枠組みを持ち、環境上適正な廃棄物管理を保証する能力と意思を示している国であること、が求められる。そのうえで、次の3点を「特に考慮する」としている。

  • 事実領域内で環境上適正な廃棄物管理を確保するために実施済み・実施予定の措置(拡大生産者責任制度、または汚染者負担原則を実施する同等の仕組みの導入など)
  • 事実自動車由来のポストコンシューマー樹脂のリサイクル比率を高めるために実施済み・実施予定の措置と、その監視指標
  • 事実国内市場に出される自動車に組み込まれるポストコンシューマー再生樹脂の比率を高めるために実施済み・実施予定の措置と、その監視指標

分析ここは日本企業にとって、意外に前向きに読める箇所である。日本には自動車リサイクル法という拡大生産者責任の枠組みがあり、1点目に対応する説明材料がある。2点目・3点目についても、政策側の動きがすでにある。

事実環境省は「自動車における再生材市場構築のための産官学連携推進事業」を実施している(同省報道発表 press_05525、2026–09–07)。補助対象は、再生材の品質保証のための分析装置と、回収量拡大・輸送効率向上のための破砕設備である。2026年9月7日に三次公募が公表され、締切は10月30日17時である。使用済自動車に係る資源回収インセンティブ制度も動いている。

分析つまり、附属書XIII Part A 3項が求めている「措置と監視指標」に相当するものが、日本側では別の政策目的で積み上がりつつある。2030年8月の窓が開くときに、これが説明材料として使える形に整理されているかどうかは、行政と業界団体の側の課題になる。個社の努力だけで満たせる条件ではない。

分析ただし、運用の形は条文からは読み切れない。附属書XIII Part A 3項が国単位の一括評価になるのか、施設ごとの立証の中で参照されるのかが分からない。第6条4項も第5項も、証明の主体を「メーカー」としており、国を評価する主体を明示していない。この点は2028年8月までに出る実施法令を待つことになる。

同じ規則の中に、第三国を同等性で受け入れる条文はないのか?

事実ある。第35条2項は、EUから第三国へ送られた使用済み自動車の処理について、「本規則に定める要件および他のEU法令に定める環境・人の健康の保護要件と同等とみなされる条件で処理が行われた」ことを、仕向地の所管当局が承認した書面証拠で示せる場合に限り、第33条の目標達成に算入されると定めている。

分析ここに2030年8月14日のような日付は付いていない。つまり同じ規則の中でも、算入の扱いは条ごとに違う。第6条は「施設がどこにあるか」+日付、第35条2項は「同等と認められる条件で処理したか」の書面証拠である。「この規則は地理で線を引いた」と一言でまとめるのは、正確ではない。

分析日本の事業者にとっては、これがもう一つの経路になりうる。EUで発生した廃車やその処理過程で出た廃棄物を日本で処理する形であれば、第6条の含有率とは別に、第33条の目標側に効く可能性がある。ただし廃棄物の越境移動そのものは規則(EU) 2024/1157に従う必要があり、所管当局の承認を伴う書面証拠が前提になる。本記事はその実現可能性までは検討していない。

もうひとつの非対称は、どこにあるのか?

廃車側には、どれだけの処理義務が課されるのか?

事実第33条2項は2032年1月1日からの年次目標を定めている。内容は、廃棄物処理事業者が廃車に含まれる樹脂の総平均重量の30%以上をリサイクルすることだ。加盟国はそれを確保する措置をとる。義務を負わせる相手は生産者、または指定された生産者責任組織である。

事実この目標では、リサイクルされた樹脂の重量と樹脂の総重量の両方から3種類が除かれる。エラストマー、クッション用ポリウレタンフォーム以外の熱硬化性樹脂、そして残留性有機汚染物質規則(EU) 2019/1021の附属書IVの閾値を超えて含有・汚染された樹脂である。

事実あわせて第34条が2029年9月1日から埋立を制限する。対象は、処理後に残るシュレッダー重質・軽質残渣のうち非不活性廃棄物を含むものだ。附属書VIII Part Gの限度値を超える場合は埋立受入が認められない。

新車側が吸収する義務は、どれだけなのか?

事実第6条1項の15%に対し、第6条2項は「その20%以上」を廃車由来または使用中に取り外した部品由来で満たすと定める。15%の20%なので、新型式の樹脂重量に対しては3ポイント相当になる。2036年からは25%の20%で5ポイントに上がる。

事実ここで重要なのは、条文が「20%以上(at least 20 %)」と書いていることだ。3ポイントは下限であって上限ではない。条文上は、15ポイント全部を廃車由来の再生材で満たしても適合する。

分析したがって、3ポイントという数字を「自動車が受け取れる量の天井」と読むことはできない。これは義務として必ず廃車由来にしなければならない床である。実際にどれだけ引き取られるかは、価格・品質・調達方針で決まる。

分析並べると、義務の水準として見たとき、処理・回収側に課される達成義務のほうが大きく見える。2032年の「廃車樹脂の30%をリサイクルする」義務に対し、自動車側の下限は「廃車由来を3ポイント」である。義務として確実に立ち上がる量は、押し出す側のほうが先に、かつ大きい。ただし前述のとおり3ポイントは下限なので、実際の引き取り量がこれで頭打ちになるわけではない。

分析この差が意味するのは、廃車由来の再生樹脂の出口が自動車の外側にも必要になる、ということだ。FENの読者に関わるのはこの点である。廃車を処理する側の設備需要は、自動車メーカーの調達計画よりも先に、しかも大きく動く可能性がある。なお第33条2項が法的な義務を負わせる相手は加盟国であり、加盟国が生産者・生産者責任組織を通じて処理事業者の達成を確保する、という組み立てである。費用の流れもこの経路に沿う。

ただし、30%と3ポイントは直接比べてよい数字なのか?

事実比べられない。分母と単位が違う。第33条2項は「廃車に含まれる樹脂の総平均重量」に対する年次の比率で、エラストマーを一括して除外する。第6条3項は「新型式ごとの樹脂重量」に対する比率である。除外するのはタイヤ由来のエラストマーと、クッション用ポリウレタンフォーム以外の熱硬化性樹脂に限られる。

事実前文第29項は、熱可塑性樹脂に再加工できるエラストマー(熱可塑性エラストマーを含む)は第6条の再生材目標の対象に含まれると明記している。タイヤが外れているのは、規則(EU) 2024/1781(ESPR)の優先製品にあたるためだと同項が説明している。

分析したがって、30%と3ポイントの比較は、方向性を示すものにとどまる。算術的に「10倍の余剰が出る」と読むことはできない。それでも、供給側の義務のほうが先に立ち上がるという向きは、条文の構造から言える。第33条2項は2032年1月1日から一律に、第6条1項は同年9月1日以降の新型式から順に効くためだ。

事実一方で、対象の広さでは第33条が上とは言えない。第2条3項・4項により、第6条も第33条も、M2・M3・N2・N3・O類とL類の車両には適用されない。どちらも乗用車(M1)と小型商用車(N1)が対象で、車種の範囲は同じである(M1・N1の特種用途車は2029年9月1日から)。材料の範囲はむしろ第6条のほうが広く、タイヤ由来以外のエラストマーを含む。

業界団体は、この非対称をどう見ているのか?

事実欧州のリサイクル業界団体EuRIC(2025年後半にRecycling Europeへ改称)は、2025年6月18日付の声明で、まさにこの点を指摘している。「60か月で廃車樹脂の30%というリサイクル目標が設定されているのに、72か月後の新車に求められる廃車樹脂由来の再生材含有率は3.75%にすぎない」と述べ、「この不整合は信頼性と投資家の信認の両方を損なうおそれがある」としている。

事実同団体は、再生材含有率目標を25%から15%へ下げたことを「後退である」とした。リサイクル事業者・メーカー・投資家に誤ったシグナルを送るという批判である。

事実ただし同じ声明は、第三国材料の扱いについては規制側を評価している。同団体は「輸入に対するミラー条項の導入」と、「EU域内であれ域外であれ、再生材含有材料を製造する施設に第三者監査を求めること」を歓迎すべき一歩だとしている。

分析これは本記事の見方への反証として重要である。業界団体自身は、第6条4項と附属書XIII・XIVを「地理による線引き」ではなく「公平な競争条件のためのミラー条項」と受け止めている。前文第28項・第30項と同じ向きである。

事実そしてもう一点、本記事の「商機」の読みとは逆向きの主張がある。同団体のマリア・ベラ・デュラン氏(シニア・テクニカル・マネージャー)は「リサイクル率を高められるのは、自動車メーカーが新車に再生プラスチックを使うと約束した場合だけであり、循環性は共有された責任でなければならない」と述べている。また、需要側の引き取りが保証されないまま品質要件だけが厳しくなると、リサイクル能力の拡大に必要な投資シグナルが損なわれるとしている。

分析本記事は「押し出す側の義務が先に立ち上がるので処理設備の需要が動く」と読んだが、EuRICの見立ては逆で、「需要側が弱いと供給側の投資は萎む」である。どちらが実際に起きるかは、2032年に向けて自動車メーカーが下限の3ポイントを超えて引き取るかどうかで決まる。設備投資を検討する場合、義務の水準だけでなく、実需の引き合いを併せて見る必要がある。

分析ただし1点、注意が必要である。この声明は2025年6月、理事会の立場が示された段階のもので、最終条文へのコメントではない。「3.75%」は当時の案(15%のうち25%が廃車由来)から出る数値である。官報に載った最終条文では第6条2項が「20%以上」なので、計算すると3ポイントになる。EuRICが指摘した不整合の向きは最終条文でも残っている、というのが本記事の読み取りである。

では、材料の作り手は何をしているのか?

機械式で域内に量をつくると、どうなるのか?──住化ポリマーコンパウンズの例

事実住化ポリマーコンパウンズ(Sumika Polymer Compounds)は住友化学の子会社である。同社はフランス南部サンマルタン・ド・クローの既存拠点を拡張している。新設するのは自動車用の再生PP(ポリプロピレン)を製造する設備だ。同社サイトの発表は2025年3月付で、起工式は3月6日である。

事実拠点はブワ・ド・ルーズ工業団地内で、1989年から操業している。新設は5,000平方メートルの建屋で、年1万トンの廃プラを再生PPペレットに変える能力を持つとされる。3年で30名を新規採用し、総勢約85名になる計画だ。

事実公的支援が入っている。フランス国が「France 2030」の枠組みでADEME(環境・エネルギー管理庁)経由で支援している。これがプロジェクト費用の30%にあたると、Invest in Provenceは記載している。加えてPACA地域圏(Sud)が「Sud Développement」で30万ユーロを補助している。

報道投資額には資料間の差がある。地域機関の発表は総額1,500万ユーロ、Plastics Newsは見出しで「€13m」(1,300万ユーロ)と表記している。ADEMEの事業概要としてPolyesterTimeが伝える数値は、プロジェクト総額2,140万ユーロ、France 2030からの公的支援600万ユーロである。対象範囲がより広いと見られる。本記事はいずれか1つを採用する判断はしていない。

報道能力についても報道がある。フランス拠点で年1万トン超の再生PP、トルコの既存拠点と合わせて年2.5万トン超だとPolyesterTimeは伝えている。原料は自動車産業の工程内廃棄物と廃車から回収された樹脂が主とされる。

分析ここで注目したいのは投資額ではなく、立地である。日本の樹脂メーカー系のコンパウンド会社が、自動車用再生材の設備を日本ではなくフランスに置いた。第6条4項の書き方を踏まえると、EU域内に再生工程を持つことは、供給先が含有率目標に算入できるという意味を持つ。

分析ただし、この投資は2025年3月に起工しており、規則の最終条文(2026年7月採択)より前の判断である。したがって「第6条4項に対応するために建てた」と言い切ることはできない。規則案の段階から域内立地の意味は見えていた、という程度にとどめておきたい。

事実ただし、当事者は規制を動機として明言している。同社のリュドヴィック・セイナーヴ社長は、「使用済み自動車の処理に関する新しい欧州規制によって引き起こされる、高性能プラスチックコンパウンドの需要増を見越して」この拠点を立ち上げるとしている(拙訳)。

分析ここで言及されているのは規則全般であって、第6条4項の域内・域外の線引きではない。それでも、規制が需要を作るという読みで設備投資が動いていることは、この一文からはっきり読み取れる。

分子まで戻すと、何を避けられるのか?──Envalior×SECARAの例

事実エンジニアリングプラスチックのEnvaliorと、ドイツのSECARAが2026年8月25日、覚書(MoU)の締結を発表した。廃車由来の樹脂から自動車用グレードのPA6(ナイロン6)をつくる経路を、共同で試験・検証する。

事実SECARAの触媒解重合は、技術樹脂を構成分子まで分解する。同社の説明では、ガラス繊維・難燃剤その他の添加剤や汚れを含む大規模な産業系混合廃棄物を扱えるように設計されている。得られるのはドロップイン品質のモノマー、PA6の場合はカプロラクタムである。

分析この組み合わせの狙いは「認定をやり直さないこと」にある。発表は、既存の重合設備にそのまま投入できる原料をつくると説明している。自動車部品の材料は、量産に入る前に長い評価・承認の工程を通る。原料の素性が変わると、その工程をもう一度回すことになりかねない。分子まで戻せば、その手戻りを避けられるという整理だ。

事実Envaliorのアルトゥール・フェルク氏(サーキュラー・低炭素ソリューション責任者)は、「技術的・品質的な制約により、機械式リサイクル単独では、要求の厳しい用途においてELV規則のクローズドループ要件を満たすには十分でない」と述べている(拙訳)。

この発言の読み方について。限定は「要求の厳しい用途において」であり、機械式リサイクル全般を否定したものではない。また同社はエンジニアリングプラスチックのメーカーであり、解重合による高純度モノマーの供給が事業機会になる立場である点も踏まえて読みたい。なおEnvalior公式サイトの当該ページ本体には到達できていないが、Renewable Carbon Newsが同社リリースを全文転載しており(発表元の日付は2026–08–25、掲載は9月2日)、発言は同転載版で確認した。

事実段階については慎重に見るべき材料がある。SECARAは技術スケールアップ企業で、扱う樹脂はPA6、PA66、ポリカーボネートである(同社サイト)。報道設立は2024年とされるが、同社サイトに設立年の記載は見当たらない。同社サイトが示す道筋は、2026年にトン規模のパイロット、2028年にキロトン規模のデモ/初号機、2031年以降に年5万トン超の工業規模である。

事実資金面の支援先が同社サイトに列挙されている。EUのEFRE/JTF、ノルトライン=ヴェストファーレン州の助成、2026年2月のGrüne Gründungen NRW(60万ユーロ)である。ほかにBMW、EXISTプログラム、ヴェルナー・ジーメンス財団、RWTHアーヘン関連のプログラムが支援・連携先として掲載されている(資金提供か事業連携かは同サイトからは判別できない)。

分析したがって現時点では、工場ではなく覚書である。現時点で公表されているのは覚書までで、生産量・時期・投資額などは今後の発表を待つ段階である。パイロットからデモへ進む過程で明らかになる部分が大きい。2031年以降の工業規模という自社の道筋は、含有率義務が始まる2032年9月にちょうど間に合う想定に見える。ただし実際に間に合うかどうかは、今後の資金調達と実証の結果による。

この2つは、競合しているのか?

分析狙っている枠が違う、と読むほうが実態に近い。第6条は2つの枠を重ねて置いている。15%というポストコンシューマー再生材の枠(第1項)と、そのうち20%以上という廃車由来の枠(第2項)である。前者は量で、後者は素性で決まる。

2つの手の当てはまり方(枠の対応関係は本記事による読み取り)
論点住化ポリマーコンパウンズ(仏)Envalior×SECARA(独)
手法機械式リサイクル(再生PPペレット)触媒解重合(PA6→カプロラクタム)
対象樹脂PP=内外装に多い汎用樹脂PA6=ガラス繊維入りの機能部品に多い技術樹脂
段階建設・立ち上げ(2025年3月起工、稼働は2026年見込みと地域機関が記載)覚書(2026年8月)。パイロットはトン規模
公表能力年1万トン超(仏)。トルコ拠点と合わせ年2.5万トン超と報道発表なし。自社サイトの道筋は2031年以降に年5万トン超
効きうる枠(本記事の読み取り)第6条1項の15%の量。原料に廃車由来が含まれる範囲で第2項にも効きうる混合廃棄物を扱える設計のため、第2項の廃車由来枠に効きやすい
立地の意味EU域内=第6条4項(a)に該当EU域内=同(a)に該当
マスバランスの扱い機械式のため第6条5項第2段落のマスバランス規定の対象外機械式以外のため同規定の対象。計算方法は実施法令待ち

「効きうる枠」は条文の構造からの本記事の読み取りであり、両社が発表で述べたものではない。実際にどの枠に算入されるかは、2028年8月31日までに採択される実施法令の計算・検証方法によって決まる。

事実第6条5項第2段落は、機械式以外のリサイクル方法で得た再生樹脂にはマスバランスの会計方法を適用すると定めている。前文第29項は、その理由をこう説明している。ケミカルリサイクルを含む機械式以外の方法にも道を開くため、である。あわせて、不均質な破砕自動車廃棄物のような専用技術の特性を考慮するとしている。

分析言い換えると、規則は最初からケミカルリサイクルを想定して書かれている。9月5日号で扱ったカリフォルニアAB 2253が管理方式の列挙で配分方法を絞ったのに対し、ELV規則はまだ方法を指定していない。どの配分方式が認められるかは、実施法令の内容次第である。

日本の事業者にとって、実務的な含意は何か?

分析1つ目。「EUで再生材需要が伸びるから、日本から再生ペレットを輸出する」という組み立ては、この規則の下ではそのままには通らない。日本の施設で再生した材料をこの含有率目標に算入させるには、附属書XIIIの要件を満たし、附属書XIVに基づく第三者監査を5年に1回以上受ける必要がある。それを自社で引き受けるのか、域内拠点・域内パートナー・域内での委託再生に切り替えるのか、並べて比較する話になる。

分析2つ目。算入されないことは、売れないことと同じではない。含有率目標に数えられなくても、自動車以外の用途、あるいは自主的な再生材利用のために買う相手はいる。ただしその場合、規則が生む「算入できる材料」のプレミアムは載らない。価格の前提が変わる。

分析3つ目。国内の廃車樹脂を扱う設備需要は、EUの動きとは別に、日本側の政策で先に動いている。9月9日号で扱った環境省の三次公募(分析装置・破砕設備、締切10月30日17時)はその例である。EUの窓が開くのを待つ話と、いま国内で使える補助の話は、時間軸が別だと整理しておきたい。

分析4つ目。点検すべきは装置よりも記録である。附属書XIII Part Bが求めているのは、分別収集された廃車樹脂が他の由来と混ざらずに工程を通ったことの立証だ。破砕・洗浄・選別・押出の各工程で、ロットを分けて流せるか、投入量と産出量とロスを工程ごとに計量できるか。ここが整っていれば、2030年の窓が開いたときに動ける。

続報で注目したいのは、どこか?

  • 第6条5項の実施法令(期限2028年8月31日)の草案。計算・検証方法と、マスバランスの配分方式の扱いが実務の分かれ目になる
  • 第6条4項第2段落に基づく、世界貿易とEU産業への影響評価の報告(期限2028年9月30日)。域外材料の扱いが動くとすれば、ここが起点になりうる
  • 附属書XIII Part A 3項の国単位の基準が、どのような手続で運用されるか。日本が説明材料をどう整理するか
  • 第6条6項の一時的な適用除外の委任法令。特定の再生樹脂の入手困難や価格高騰が発動要件として明記されている。第56条6項の2031年評価の項目も「再生プラスチックの十分な入手可能性」「目標達成の技術的・経済的困難」であり、立法者が備えているのは余剰ではなく不足の側である点は、本記事の「押し出す側が先に大きい」という読みへの反証として押さえておきたい。PPWR第7条13項も第一次の要件はほぼ同文だが、そこに「人・動物の健康、食料供給の安全、または環境に重大な悪影響が生じる例外的な場合」という要件が重ねられている。その分、ELV規則側のほうが発動しやすい書き方である
  • 第6条7項・8項の鉄鋼・アルミの再生材比率(評価期限2027年9月30日、委任法令は2028年9月30日まで)。樹脂だけの話では終わらない
  • SECARAのパイロットからデモへの移行、および住化のフランス拠点の稼働開始の公表