出勤前などにカフェに立ち寄り、ドリンクを持って街を歩く人の姿がよく見られますね。
このテイクアウト用ドリンクには、リッドというプラスチック製の蓋がついてきます。
リッドはコーヒー愛好者にとってありがたいものです。
持ち運ぶ際にこぼれにくく、保温の効果もあります。
このように便利なリッドですが、使い終わったリッドはただのゴミになってしまいます。
リッドをはじめとするプラスチック製品は便利さゆえに大量に作られ、大量のゴミを生み出しています。そして、プラスチック問題という重大な環境問題を引き起こしているのです。
プラスチック問題とは
プラスチックは以下のような悪影響を環境に与えています。
- 大量のプラスチックが海に流出して、海を汚染している
- プラスチックが燃やされるときに温室効果ガスが発生し、地球温暖化の原因になる
- プラスチックの原料は石油であるため、資源の枯渇につながる
2050年の海は魚の数よりプラスチックゴミが多くなる
これらの中でも、特に問題視されているのが海洋汚染問題です。
私たちが生活のために利用したプラスチックは、河川などから大量に海に流出しています。
プラスチックは自然分解に時間がかかり、例えばペットボトルだと分解するまでに400年以上かかるといわれています。
海に流れ出てしまうとそのまま海を漂い続け、徐々に小さく砕けていき、細かい粒状のプラスチック(マイクロプラスチック)となります。
このマイクロプラスチックは表面に凸凹が多いため、有害な物質を吸着しやすい性質を持っています。
DDTのような有機塩素系殺虫剤、近年国際的にも規制が厳しくなっている多環芳香族炭化水素、PCBといった残留性有機汚染物質などを吸着するのです。
海の魚がこれらの汚染物質を吸着したマイクロプラスチックを食べます。
さらにその魚を人間が食べることによって起こる、人間の体への生体濃縮の影響について、多くの研究者が警鐘を鳴らしています。
出典:公益財団法人 日本野鳥の会
https://www.wbsj.org/activity/conservation/law/plastic-pollution/article/2021-07-08/
2015年にプラスチックストローが刺さったウミガメが涙を浮かべている映像がYouTubeで拡散しましたが、ウミガメの問題だけではありません。
ポリ袋を餌と間違って食べたり、プラスチック製の袋や網が絡まったりして、絶滅危惧種を含む魚類や海鳥、アザラシなど少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしています。
出典:Gall, Sarah C., and Richard C. Thompson. “The impact of debris on marine life.” Marine pollution bulletin 92.1-2 (2015): 170-179.
海には既に1億5,000万トンものプラスチックゴミがあります。
2050年にはプラスチック生産量はさらに約4倍となり、海洋へのプラスチック流出の拡大により「海洋プラスチックゴミの量が海にいる魚を上回る」というショッキングな予測も発表されています。
出典:
Conservancy, Ocean. “Stemming the tide: Land-based strategies for a plastic-free ocean.” Ocean Conservancy and McKinsey Center for Business and Environment, 48pp (2015).
出典:
World Economic Forum (2016). The New Plastics Economy:Rethinking the future of plastics
各国の取り組み
海がプラスチックゴミであふれかえってしまうという未来を変えるために、世界ではどのような取り組みをしているのでしょうか。
2015年9月の国連サミットにて加盟国の全会一致で、人類が地球上で暮らしていくための2030年までに達成すべき具体的な目標が定められました。
これが近年よく耳にするSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)です。
この目標の14番目の項目に掲げられているのが、「海の豊さを守ろう」です。
EUではこれをもとにプラスチックリサイクル、プラスチック廃棄物と海洋ゴミの削減のための「EUプラスチック戦略」(正式名称:「循環経済におけるプラスチックに関する欧州戦略」)を定めました。
この取り組みは多岐にわたっています。
出典:一般社団法人廃棄物資源循環学会
http://jsmcwm.or.jp/edit/kurashi/09/076aoki.pdf
EU内では2030年までに全てのプラスチック包装材をリユース・リサイクルすることを目指しています。
アメリカではプラスチック汚染を削減するための官民連携が進んでいます。
プラスチックストロー・マドラーの使用禁止や、再生プラスチック比率記載が義務付けられています。
マイクロプラスチックのひとつであるマイクロビーズを削減するため、これを含む洗顔料や歯磨き粉の製造・販売が禁止されています。
食品売り場などでは野菜や果物がバラで陳列されており、必要なだけ紙袋に入れて買うというショッピングスタイルになっています。
出典:朝日新聞
https://globe.asahi.com/article/12134758
日本は世界と比べるとまだまだおくれをとっていますが、2020年7月にレジ袋が有料化され、2022年4月からは「プラスチック資源循環促進法」が施行されるなど、本格的に対策がなされるようになりました。
「プラスチック資源循環促進法」は、日本国内のプラスチックを規制するものではなく、事業者や自治体が、プラスチック製品の設計から製造・使用後の再利用までのプロセスで資源循環をしていくための法律です。
これまでも日本ではプラスチックのリサイクルに関する様々な法律が存在していました。
しかしそれらは「容器包装リサイクル法」や「家電リサイクル法」など、それぞれの製品に焦点を当てたもので、すでにある製品が廃棄されたあと、どのようにリサイクルするかという点に目を向けていました。
しかし、プラスチック資源循環促進法では、「そもそもごみを出さないように設計する」というサーキュラーエコノミー(循環経済)の考えが取り入れられており、3R(リデュース・リユース・リサイクル)+「リニューアブル(再生可能)」を基本原則に掲げています。
使い捨てカップの環境への影響は
それでは、冒頭で挙げたテイクアウト用ドリンクのリッドの話に戻りましょう。以下の図は2020年の「国際海岸クリーンアップ」が発表した世界各地の海岸で見つかるゴミのトップ10です。
順位 | ゴミの種類 |
1位 | 食品の包装 |
2位 | たばこの吸い殻 |
3位 | プラスチックの飲料ボトル |
4位 | プラスチックボトルのキャップ |
5位 | ストロー・マドラー |
6位 | プラスチックのテイクアウト容器 |
7位 | プラスチックのレジ袋 |
8位 | 発砲スチロールのテイクアウト容器 |
9位 | その他のプラスチックの袋 |
10位 | プラスチックの蓋 |
(Ocean Conservancy: 2022 report, International Coastal Cleanup)
便利なドリンクのリッドが10位にランクインされています。
カフェでより美味しいコーヒーを味わうときできる小さな一歩
カフェやコンビニエンスストアで飲むコーヒーやドリンク好きな方が、美味しいドリンクを堪能しながらも、環境のために簡単に始められる第一歩を紹介します。
- マイボトルを持ち歩く
これはいわずとしれた最も簡単なプラスチック削減方法です。
またマイボトルには削減の効果だけではなく、使う側にとってのメリットがあります。
保温、保冷性が高いためオフィスに帰るまで温度を保っておけるのです。そして、お小遣いの節約になります。コンビニエンスストアやカフェでは、マイボトルを持参すると割引価格で購入できる店舗もあります。
例えばスターバックスでは22円、タリーズコーヒーでは30円、上島珈琲店ではなんと50円の値引きがあります。
また、マイボトルはデザイン性の高いものがたくさん出回っています。
自分のお気に入りのマイボトルを探す、その日の気分や服装、シーンに合わせて持ち歩くマイボトルを変えるのも楽しみの一つになるでしょう。 - 店を選ぶ
カフェでもコンビニエンスストアでも、店によって環境への取り組み方が違っています。
「マイボトル持参の割引」「店内でドリンクを飲んだ場合にリユースカップを使っているか」「ストローをレジカウンターで渡すかどうか」などから環境に対する取り組みの度合い知ることができます。環境に配慮した店を選ぶことは、小さな一歩に過ぎませんが大切なことです。その一歩が世の中全体を動かすことにつながります。マイボトルを持参した客が多く利用するようになれば、店側も積極的に環境に配慮するようになるでしょう。
最後に
ほっと一息つけるコーヒータイム。
マイボトルを使ったからといって環境に与える影響は微々たるものかもしれません。
しかし、マイボトルを使うことによって自分自身が環境について意識し、他の人も「そのボトルおしゃれだね」といって真似をするようになったら意義があることなのではないでしょうか。