グリーンウォッシュとは?ESG投資の裏にある「偽りのエコ」の真相究明

グリーンウォッシュとは?

「グリーンウォッシュ(Greenwash)とは、ホワイトウォッシュ(安価な塗料、転じて「ごまかす」という意味)をもじって作られた造語です。ホワイトウォッシュは、白い塗料でごまかしますが、環境配慮(グリーン)でごまかすという意味で、グリーンウォッシュという言葉が使われています。

グリーンウォッシュは、企業活動がどれくらい環境や社会に対して影響を与えているのかについてきちんと説明せず、消費者に誤った説明を行う行為を指します。見せかけの環境に取り組む企業は「グリーンウォッシュ企業」と呼ばれることもあります。

より持続可能な社会を目指すと言いながら、実際には形だけの取り組みしかしていない企業もあるのです。

グリーンウォッシュが生まれたのは1980年代

近年、特に注目されるようになったグリーンウォッシュ。ですが、その言葉が生まれたのは1980年代にまで遡ります。

1980年代半ば、アメリカの石油会社のシェブロンは、自社の環境保護への貢献度を世間にアピールするため、高価なテレビ広告と印刷広告を制作しました。「People Do」と題されたシェブロンによるこのキャンペーンでは、シェブロンの従業員がクマや蝶、ウミガメなど、さまざまなかわいい動物たちを守っている様子が映し出されました。

このCMは、環境保護主義者の間でも悪名高く、「グリーンウォッシング(疑わしい環境記録を隠すために持続可能性を謳う企業慣行)の金字塔」とも言われています。なぜなら、環境活動を行っているようにみせて、実際にはその実態が伴っていないためです。

シェブロンに限らず、80年代末から90年代初めにかけて、消費者の環境意識の高まりを受けて、企業はグリーンなイメージを売り込もうと、こぞって熱帯雨林やイルカの写真を使った広告キャンペーンを打ちました。当時のような幼稚なプロパガンダは現在は影を潜めていますが、グリーンウォッシュそのものが無くなったわけではありません。むしろ2つの意味でグリーンウォッシュは進化を遂げたと言えるでしょう。

1つは、経済のグローバル化に伴い、グリーンウォッシュも地球規模に広がり、途上国でも盛んにエコ・キャンペーンが展開されるようになったことです。もう1つは、多様なCSRの取り組みが実施される中で、グリーンウォッシュがより見抜きにくいものになったことです。

「グリーンウォッシュ2.0」とも言うべきこうしたPRキャンペーンは、イメージ先行型ではなく、実績アピール型で、より戦略的な色合いの濃いものとなってきています。たとえば、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは自社のサイトで再生可能エネルギーの開発についてアピールしています。しかし、同社の開発投資全体の規模から見れば、グリーン事業の予算はスズメの涙ほどに過ぎません。これでは、同社の活動がグリーンウォッシュだと批判されても仕方がないでしょう。

近年では、「オーガニック」といった商品ラベルも、グリーンウォッシュに利用されるようになっています。スーパーの棚で目に付くこの手のラベルは、建前としては、環境意識の高い消費者が賢い選択をし、持続可能な消費生活を送るためのものとされているものの、それが実態を反映したものであるかどうかは定かではありません。

グリーンウォッシュが行われる理由:ESGへの対応が急務

グリーンウォッシュが告発されれば、企業の業績やブランドにも影響します。にもかかわらず、なぜグリーンウォッシュが行われるのでしょうか。ここからは、その理由について明らかにしていきます。

ESGがブランド価値を引き上げる

グリーンウォッシュが行われる理由の一つは、エシカルであるとみなされることが企業の収益性やブランド価値を高めるからです。

アメリカのコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、Z世代(およそ1996年から2010年に生まれた人々)は、倫理的であると見なされる企業やブランドにお金を使う傾向が強いことがわかりました。また、同じくアメリカの調査会社であるニールセンが発行した「Global Corporate Sustainability Report」によると、66%の消費者が持続可能なブランドの製品であればより多く消費すると回答し、ミレニアル世代ではその数字が73%に跳ね上がっています。

ESG評価が資金調達に影響する

近年では、企業に資金を提供する金融機関にもESGを重視するという動きがあります。たとえば、国連による責任投資原則:PRI(Principles for Responsible Investment)の提唱やSDGs(Sustainable Development Goals)の採択、などがESG投資への取り組みを加速させているのです。ESGに取り組んでいない企業には、資金を提供しないという金融機関も増えてきています。

ESGは、投資家の投資判断の基準を変えて環境問題・社会問題を解決することを目的としたものです。利益ばかりを優先した経営では、「環境に負荷がかかる」「長時間労働が深刻化する」「不正・不祥事が起こる」といった悪影響が生じ、経営が持続可能なものではなくなります。経営の持続可能性を確保しつつ、成長するためには、環境・社会・ガバナンスに配慮しながら活動を行う意識が不可欠です。

こうした取り組みを受けて、日本でも、金融庁が2014年に日本版スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)を制定・公表しました。さらに、2017年の改訂で、機関投資家が、投資先企業のESG要素を含む非財務情報などを把握することが義務付けられています。加えて、金融庁は2020年3月に同コードを再改訂して、機関投資家に積極的な関与(エンゲージメント)を行うことなどを求めるようになりました。

こうした動きがあることから、ESGに取り組まない企業には資金を調達できないという可能性があるのです。

コーポレートガバナンスコードの再改訂版への追記

東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コード(CG)」の改定を2021年6月11日に行いました。この改訂によって、国際標準の枠組みに基づいて情報を開示する旨、明記されました。
その前まで、企業は様々な情報を開示していたものの、重要な情報を特定して情報開示をすることが求められるようになったのです。その結果、企業はグリーンウォッシュがしにくくなり、もし改善策を示さなければ機関投資家が最終手段として、ポートフォリオから外す「ダイベストメント(投資撤退)」を行うという動きも強まってきています。

グリーンウォッシュによって生じる可能性があるリスク

もし企業がグリーンウォッシュを行い、それが明るみに出たらどのようなことが起きるのでしょうか。ここでは、以下の2点を取り上げます。

企業イメージがダウンする

企業がグリーンウォッシュをしているとステークホルダーから糾弾されたり、環境保護に注力する非営利団体などから訴訟を起こされたりする可能性があります。
日本企業はまだそうしたケースは多くないものの何例はあります。
たとえば、日本企業であるファーストリテイリングや良品計画は、ウイグルにおいて生産されている新疆綿を利用して生産活動を行っています。しかし、ウイグルでは、強制労働などが行われている可能性があるという報告があります。この場合、強制労働によって生産された新疆綿をファーストリテイリングや良品計画は利用している可能性があるというわけです。両者ともに、自社工場において強制労働はないと公表していますが、消費者からは厳しい目が向けられています。こうした結果、企業イメージがダウンする可能性は避けられません。

投資家からの信頼を損なう

近年の投資家は、ESGの観点を投資分析に取り入れ、持続可能な社会づくりを支援する企業への投資に注力しているのです、つまり、企業がESG活動に力を入れることは、売り上げの向上や、株価の上昇、資金調達コストの低減にもつながる可能性があります。逆に言えば、ESGに関する取組みを行わない、ましてやグリーンウォッシュに手を染めてしまうような企業だと、投資家からの信頼を損なう可能性があるということです。

グリーンウォッシュの見分け方:7のサイン

ある企業の情報がグリーンウォッシュであるか、そうでないかを判断するのはいち消費者にとっては非常に難しいものです。しかし、以下の7個のサインがあった場合には、グリーンウォッシュを疑ってみましょう。グリーンウォッシュでない可能性ももちろんありますが、疑いの目を向けることは非常に重要です。なぜなら、それによって企業の行動が変わる可能性があるからです。

エコを暗喩

「エコ」・「サステナブル」・「グリーン」といった言葉は、企業が環境に配慮していることを暗に示すために利用される言葉でもあります。エコな商品といっても、その根拠がないケースも少なくありません。エコという言葉を仄めかすだけで、何がどれだけ良くなったのか具体的に示さないのです。「サステナブル」「環境に良い」と言いながら十分な根拠を示していない企業は、グリーンウォッシュをしている可能性があります。

無関係なエコに言及

たとえば「フロンを使っていない製品です」というように宣伝されるケースがあると思います。しかし、そもそもフロンは法律で使用が禁止されているのです。フロンを使えば法律違反になります。したがって、当然フロンは利用できないのです。にもかかわらず、ノンフロンを喧伝するのは無関係なエコに言及しているに過ぎません。これは本当に、ESGに配慮した行動なのでしょうか。

他の企業より優っていることを言及

石油産出企業数社を比較して他の企業よりも優れていると謳っても、それは本当に環境に優しい企業と言えるでしょうか。どんなに他の企業よりも優れた活動をしていても、それが本当に環境のためになっているかを判断することはできません。にもかかわらずそれに言及するのは、グリーンウォッシュである可能性があります。

信頼できない言葉

原材料について、「自然派」「オーガニック」とうたっている製品が、実際にはこうした原材料を一部しか使っていないというケースが多くあります。環境配慮型製品であるというラベルが貼られていても、それが本当かどうかはわかりません。そのような信頼できない言葉で活動を繕うこともグループウォッシュとなってしまう可能性があります。

専門用語の多用

企業が本当に環境に良い活動をしているのであれば、それをステイクホルダーにできるだけわかりやすい言葉で伝えようとするでしょう。反対に、ステイクホルダーに対して積極的にごまかしたい事柄については専門用語を多用する可能性があります。

確実な証拠がない

不正確な情報に基づいて環境に配慮していると主張するのは代表的なグリーンウォッシュの一例です。オーガニックコットンと言っても、まったく農薬を使わずに作られていると言っても、実際に現地で企業が調査をしなければそれが本当かわかりません。 第三者の立証に耐えない宣伝をするのはグリーンウォッシュとなる可能性があります。

グリーンウォッシュを避けるために確認すべきこと

企業が意図せずグリーンウォッシュだと言われるケースもままあります。それでは、企業はグリーンウォッシュを避けるためにどうしたらよいでしょうか。ここでは、グリーンウォッシュを避けるために企業が確認すべきことを説明していきます。

環境への取り組みにとって重要なメッセージか

具体的なことが何も書かれておらず、一定の意味を持たないマーケティングメッセージ(たとえば、「環境に優しい」など)や、事実や主張の裏付けがない言葉の使用は避けるべきです。欧州の規制当局は、環境へ貢献していると打ち出す企業に対し、明確な立証を求めることで一致しています。

事実に基づいてマーケティングを行うことが重要です。自社のサプライチェーンがどのようなものかを確認し、自社がいかに「グリーン」であるかについて何らかの声明を出す場合は、それを100%裏付けできることを確認しましょう。誤解や誇張があれば、消費者から深刻な反発を受ける可能性があります。数値化できない、証明できない、曖昧な言葉は使わないでください。

会社の各部署に働きかけているか

現場レベルの社員全員がグリーンウォッシュに対して注意を払う必要があります。経営者がどんなに高潔な価値観を示したとしても、組織の内部で共感を生み出せなければ意味がありません。
したがって、経営層は積極的に各部署へと働きかける必要があります。グリーンウォッシュのリスクを各部署できちんと理解するように情報を共有する仕組みを会社として構築しなければなりません。

グリーンウォッシュの企業事例

ここからは、企業のグリーンウォッシュの事例について紹介していきましょう。

マクドナルド

2018年に、マクドナルドはプラスチック製ストロー利用を取りやめて、紙製ストローを利用する決断をしました。当時、マクドナルドでは1日に100万本以上のプラスチック製ストローが使われていたものの、これをすべて紙製に切り替えると宣言したのです。紙製に切り替えることを公表した当初は、紙製ストローは100%リサイクルが可能と説明していたものの、実際には、紙製ストローはリサイクルが困難であることがわかっていたのです。つまり、マクドナルドは、リサイクル困難であることを知りながら、リサイクルできると主張し、グリーンウォッシュを行ったのです。

ヘネスアンドマウリッツ(H&M)

スウェーデンのファストファッションブランドである「H&M」は2019年にグリーンウォッシュの可能性があると報じられ非難されました。
H&Mを非難したのは、ノルウェーの消費者庁(The Norwegian Consumer Authority)でした。ノルウェーの消費者庁は「H&Mが発表したコレクションは、全てのアイテムにオーガニック・コットンやテンセル、リサイクル・ポリエステルといったサステイナブルな素材を使用しているものの、リサイクル素材の使用量などについては十分な説明がなく、どのように「持続可能」なのか明確な情報を提供していないと指摘しています。
H&Mは「30年までに、すべての商品において再生資源もしくは自然由来の原材料を100%使用する」というサステナビリティ宣言をしている企業です。しかし、2019年の取り組みは、グリーンウォッシュに該当する可能性があるとして非難されました。

グリーンウォッシュ問題は他人事では済まされない

その企業が故意に表面を繕うイメージ戦略のために行っている場合だけではなく、企業がよかれと思ってやり、結果的に「実は環境に悪影響を与えている」場合も、グリーンウォッシュとみなされるケースがあります。

2019年には、MUJIとUNIQLOを含む世界の衣料大手が、強制労働のウイグル人が生産した綿を調達している疑惑が浮上しました。
MUJIはオーガニックを全面に出し広告活動を行っていますし、UNIQLOもリサイクルダウンを使った商品を販売するなど、積極的にエコを推進している企業です。ある研究によれば、故意で行われるグリーンウォッシュよりも、知見や取組体制が不足のしているためグリーンウォッシュをしていると避難される企業の方が多いといいます。
そのため、いつ自社がグリーンウォッシュの指摘を受けるかは予測できないものです。企業は、明確に企業戦略の中にESG戦略の取り組みを位置づけ、従業員にその意義や重要性を周知しながら、継続的に活動していくしかありません。

企業はグリーンウォッシュと言われないための取り組みを

近年では、非財務情報やSNSなどの情報を活用したESG評価も行われるようになってきています。「偽りのエコ」活動は、今後、どんどん暴かれるようになっていくでしょう。

企業を取り巻く環境が急速に変化するなか、気候変動の危機に対応できない企業は競争力を失います。同時に、ESG情報を開示しない企業も、もはや不利益を被るだけです。企業経営者は今後、グリーンウォッシュの問題に真正面から立ち向かっていかなければならないでしょう。

当記事は識学総研より寄稿いただきました

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