排水処理とは 設備やフロー、仕組み、法律について解説

排水処理とは

排水処理とは、一般家庭、工場及び事業所から排出される廃水から有害物質を除去し、公共用水域や地下水といった環境へ影響を及ぼさないレベルまで水質を改善する、水浄化のプロセスやシステムのことを指します。

下記横浜市の動画では、工場排水処理技術の全体フローや個別要素の詳しい説明を見ることができます。横浜市が公開している動画には、油を含んだ排水処理や、水質測定技術について解説した動画もありますので、しっかりと勉強したい方にはおすすめです。

この記事では、排水処理の処理フロー例や個別プロセス、耐用年数、価格、法規制、メッキ工場や食品工場の排水処理プロセス例について解説しています。

弊社で取り扱っている排水処理設備は、下記記事リンクよりご覧になれます。
詳しく知りたい方は、お問い合わせよりご連絡をお願いします。

排水処理設備 廃プラ洗浄の水処理を低コストで行うには

排水処理設備の流れと構成要素

全体理解のため、排水処理設備の参考フローを載せておきます。

工程 機能
スクリーン 大きな異物を除去します。
沈殿(1次処理) 浮遊物を沈殿させます。
微生物処理(2次処理) 微生物を利用して有機物を分解します。
沈殿(2次処理) 有機物分解で生じた汚泥を沈殿させます。
有毒化合物除去(3次処理) 有毒化合物を無害化します。
汚泥処理 発生した汚泥を貯蔵し、処分します。

予備処理

スクリーンイメージ

排水中の粗大な固形物を取り除く工程です。固形物には木片やぼろきれなどが含まれており、スクリーンという格子状の構造物を通過させてこし取ります。スクリーンでこしとられた固形物は、埋め立て地に埋められたり燃やされて処分されます。

1次処理(沈殿)

沈殿槽

スクリーン通過後も微粒子が液体中に浮遊しているため、1次処理の沈殿槽で微粒子を沈殿させ、汚泥(スラッジ)を形成します。1次処理により、浮遊物質の約60〜70%が除去されます。1次沈殿槽を出る液体には、依然として非常に細かい固形物と溶解物が含まれているため、通常は2次処理が必要です。

2次処理(微生物処理と沈殿)

曝気槽

排水処理の2次処理は、1次処理で取り除かれなかった微細粒子や溶解物を取り除く工程です。これは主に微生物処理(生物学的処理)と沈殿(物理的処理)の2つの主要な方法によって行われます。

微生物処理(生物学的処理)

活性汚泥法
この方法では、微生物を含む汚泥を利用して有機物を分解します。好気性微生物を利用する場合は、酸素の供給が必要です。有機物総量の変動に弱いため、汚物量が一定となるよう調整したり、微生物が快適に過ごせるよう環境を整える必要があります。

フィルターベッド法
砕石、砂利、コークス、プラスチックベッドなど、フィルターベッド内に生息する微生物が分解します。フィルターベッドは監視の手間はかかりませんが、広い土地が必要です。

沈殿(物理的処理):

2次沈殿
1次処理で浮遊していた微粒子などを沈殿させます。沈殿した固形物は汚泥(スラッジ)として取り除かれ、残った綺麗な水は次の処理段階に進みます。

3次処理(有毒化合物除去)

3次処理槽

有毒化合物等を排水基準レベルまで減らす必要がある場合は、3次処理が必要です。方法としては、薬品処理、紫外線消毒、フィルター膜など、さまざまな種類の3次処理が存在します。広大な土地が利用できる場合は、排水用池などを通って流れるようにすることもあります。

参考として、各処理における成分除去比率の目安を下記表に記します。

表1-1. 処理段階ごとの成分除去率(参考値)

対象成分 1次処理 2次処理 3次処理
浮遊物質 60-70 80-95 90-85
BOD 20-40 70-90 >95
リン 10-30 20-40 85-97
窒素 10-20 20-40 20-40
大腸菌 60-90 90-99 >99
ウイルス 30-70 90-99 >99
カドミウム、亜鉛 5-20 20-40 40-60
銅、鉛、クロム 40-60 70-90 80-89

下記記事では、様々な排水処理方法を紹介していますので、より詳しく知りたい方はご確認してみてください。

排水処理の方法と種類 種類別に特徴や基本を解説

排水処理設備の耐用年数

計器類、機械類、受水槽、配管類などありますが仕様により大幅に耐用年数が変わるものもあります。参考として、計器類であれば5-10年、機械類で7-20年、配管類で10-30年、受水槽で15-50年程度のイメージとなります。

排水処理設備の価格

処理方法や処理量によって設計条件が大きく変わるため、この程度の金額という数字を示すのは非常に難しいです。1日の処理量が数十トン-数百トンレベルの処理施設の場合、全体で数千万-数億円規模の金額となるイメージです。

またランニングコストとして下水料金や汚泥処理費、薬剤費、フィルター等消耗品費などがかかりますので、イニシャルコストだけでなくこちらにも注意が必要です。

排水処理の法規制

工場や事業所から公共用水域へ水を排出する際に、排出量や排水成分が特定施設に該当する場合は、排水が適切に処理され定められた基準値を満たしていることを証明する書類を都道府県や地方自治体へ提出する必要があります。
水質汚濁防止法を基本に、下水道法、浄化槽法などが該当し、その上で各都道府県や地方自治体による上乗せ排水基準があるため、工場排水がどれに該当するか役所へ相談することをおすすめします。

排水基準を違反すると罰金や施設の停止命令などの重いペナルティが課せられますので、必ず規制を遵守しながら適切な排水処理を行うことが重要です。

法令などを詳しく調べる際は、政府サービスのe-gov法令検索が便利です。

排水基準で確認される代表的な項目

調整槽において、排水を工場外へ排出する前に、排水中の有害物質などが自治体等の規制値未満となっているか確認が必要です。

規制値は工場の業種、工場からの排水量、水質保全区域に該当するかなど、条件によって変化するため、工場がある県や自治体の環境局や環境保全課といった部署へ必ず確認をしましょう。

BOD(生物酸素要求量)

BOD(生物酸素要求量:Biochemical Oxygen Demand)は、排水の汚れ具合を表す指標です。
微生物が好気条件下で有機物を分解するために、どれだけの溶存酸素 (DO) を消費するかを示します。単位はmg/Lです。

排水中の有機物が多いほどより酸素を消費するため、BODの値は大きくなります。

COD(化学的酸素要求量)

COD(化学的酸素要求量:Chemical Oxygen Demand)は、排水の汚れ具合を表す指標です。
過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウムなどの酸化剤を利用して、排水中に存在する有機および無機化学物質を化学酸化するために必要な酸素の量を示します。単位はmg/Lです。

BODと同じく、排水中の有機物が多いほどより酸素を消費するため、CODの値は大きくなります。また、CODは生物に限定されず排水中の酸化される物質すべてを評価するため、BODよりも大きな値を示します。
CODの測定は数時間で完了するため、日々の排水処理プロセスのモニタリングに利用されています。

SS(浮遊物質量)

SS(浮遊物質量:Suspended Solids)は、水中に懸濁している不溶解性物質の総量を示す指標です。
JISでは懸濁物質、環境基準や排水基準では浮遊物質といい、2mmのふるいを通過し、1μmのろ過材上に残留する物質と定義されています。単位はmg/Lです。

SSの値が大きいと、浮遊物質が多いことを示すため水が濁り透明度が低い状態となることが多いですが、水の濁度(水の透明度を光学的に測定するもの)と厳密な相関はありません。

n-Hex(ノルマルヘキサン抽出物質)

n-Hex(ノルマルヘキサン抽出物質:n-Hexane)は、排水中の有機溶剤や油分を示す指標です。
動植物油脂、脂肪酸、リン脂質などの脂肪酸誘導体、ワックスグリース、石油系炭化水素等の総称で、溶媒であるn-Hexにより抽出される不揮発性物質の含有量を表します。単位はmg/Lです。

pH(水素イオン濃度指数)

pH(水素イオン濃度指数:Hydrogen Ion Concentration Index)は、排水の酸性、アルカリ性の度合いを示す指標です。pHが7で中性、7を超えるとアルカリ性、7未満では酸性を示します。

河川水では通常pH6.5~8.5の範囲に収まっています。

各種有害物質

カドミウム及びその化合物、シアン化合物、鉛及びその化合物など、重金属類や有害化学物質も排水規制値が定められています。単位はmg/Lです。

工場で取り扱う物質によっては該当しない項目もありますが、運用時に一括検査し運用条件が変わらなければその後はモニタリングしなくてよいのか、それとも定期的にすべて検査しなければならないのか、自治体によって対応が異なるため、役所の担当部署へ必ず確認するようにしましょう。

pH調整や凝集など、排水処理で用いる薬品については、下記記事で詳しく解説しています。

排水処理で用いる薬品 pH調整剤や凝集剤について解説

排水処理と微生物

排水中の有機物処理のため、排水処理設備では微生物をよく用います。

好気性微生物

好気性微生物は、生存と代謝のために酸素を必要とします。この際に、酸素を利用して有機物を酸化分解するため、活性汚泥法において、水中に空気を吹き込む曝気環境で使用されます。微生物が排水中の汚染物質を分解し、エネルギーに変換して増殖するのを利用したのが活性汚泥法です。

嫌気性微生物

酸素がほとんど存在しない環境や無酸素環境で使用されます。この微生物の主な役割は、スラッジの量を減らし、そこから窒素ガスやメタンガスを生成することです。ここで発生するメタンガスを適切に処理すれば、代替エネルギー源として使用可能です。

微生物方式のメリット、デメリット

メリット デメリット
  • 設置が低コスト。
  • 排水品質が良い。
  • 臭気が少ない。
  • 運用コストが高い。
  • 運用管理が大変。
  • 汚泥が大量発生する。
  • 有機物総量の変動に弱い。

微生物処理を利用した排水処理設備の運用にあたっては、微生物が最大限能力を発揮できるよう、システム内の有機物量や液中酸素濃度、水温やpHなど各種条件を日々管理する必要があります。

利用する微生物は様々で、有機物除去を行う好気性微生物、分散した微生物や浮遊粒子を除去する原生動物(繊毛虫など)、微生物や原生動物を食べシステムを維持する後生動物(ワムシなど)、その他糸状菌や藻類、真菌など、増減具合を見ることでシステムの状態が分かります。

排水処理と膜処理

出典:Pureco Ltd

排水中の汚泥を除去するため、活性汚泥法では微生物処理を行う槽と沈殿槽の2つが必要でした。しかし、膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio Reactor)では、膜を用いて水分と汚泥を分離するため、沈殿槽が不要となります。

大規模な敷地を必要とせず、沈殿槽以外の設備も省略できるため、近年ではよく採用されています。

MBR方式のメリット、デメリット

メリット デメリット
  • 活性汚泥法よりも設置面積が小さい。
  • 活性汚泥法よりも必要設備が少ない。
  • 汚水の有機物総量変動に強い。
  • 膜ユニットを増やすことで、柔軟に処理量を増やすことが可能。
  • 膜の定期洗浄が必要。
  • 膜の定期交換が必要でコストが掛かる。
  • 電気代などは活性汚泥法よりも多く必要。
  • 条件によっては発泡しやすい。

排水処理参考フローの事例

下記はプラスチックリサイクル工場の排水処理フロー例です。主に原料プラスチックの洗浄廃水、押出機や製品ペレットの冷却水経由の排水を処理します。

プラスチックリサイクル工場の排水処理フロー

工程 機能
油水分離層 排水中に含まれる油と水を分離します。
分離した油は吸着フィルターやスカムスキマーで取り除きます。
排水槽 排水の流量や濃度を均一化します。
排水の急激な変動を抑え、次の処理工程への負担を軽減します。
シックナー 排水中の固形物や微粒子を沈殿させることで、排水中の浮遊物や異物を取り除き、排水を汚れの少ない状態にします。
ろ過フィルター シックナーで除去されなかった微細な固体や異物を取り除きます。
調整槽 排水規制値以下の水質まで浄化されているか、様々な項目を確認します。規制値を満たしていない場合は、薬液等で調整を行います。
スラリー貯留槽 シックナーで発生したスラリーを一時貯留し、
次工程との運転調整を行います。
脱水機 凝集物の水分を減らすことで、産業廃棄物となる脱水ケーキ重量を減らし、処理費用を削減します。脱水機で絞った水は、排水槽に戻し排水濃度を薄めるために再利用します。

下記記事では、排水処理フローを考える際の検討要素や産業別排水処理フロー例を載せていますので、興味がある方はご覧になってください。

排水処理フロー 検討要素や産業別の参考フローを紹介

排水処理設備の主なメーカー

代表的なメーカーをいくつかご紹介します。

会社名 HP URL
栗田工業株式会社 https://www.kurita.co.jp/
オルガノ株式会社 https://www.organo.co.jp/
水ing株式会社 https://www.swing-w.com/
株式会社タクマ https://www.takuma.co.jp/
日立造船株式会社 https://www.hitachizosen.co.jp/
メタウォーター株式会社 https://www.metawater.co.jp/
月島機械株式会社 https://www.tsk-g.co.jp/
株式会社神鋼環境ソリューション https://www.kobelco-eco.co.jp/

まとめ

排水処理とは、一般家庭、工場及び事業所から排出される廃水から有害物質を除去し、公共用水域や地下水といった環境へ影響を及ぼさないレベルまで水質を改善する、水浄化のプロセスやシステムのことです。

プロセスには、粗大な固形物を取り除く工程、スラッジを形成させて水分と固形物とを分離する工程、有害物質を取り除く工程などがあります。

排水処理設備の耐用年数や価格は、設備内容によって変化するため、自社で処理する排水性質に合わせ、メーカーと相談しながら過不足ない仕様を設計するようにしましょう。

排水を工場外へ排出する際、排水中に含まれる成分には各規制値が設けられているため、工場がある県や自治体の環境局や環境保全課といった部署へ必ず確認をしましょう。

弊社で取り扱っている排水処理設備は、下記記事リンクよりご覧になれます。
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排水処理設備 廃プラ洗浄の水処理を低コストで行うには

Q&A

質問 回答
排水にはどのような物質が含まれているでしょうか? 原料や製品に含まれる化学物質、溶剤、油分、重金属などが含まれていることがあります。工程によって含有物質は異なります。
排水を適切に処理することがなぜ重要なのでしょうか? 適切に処理しないと、河川などの公共水域を汚染する可能性があります。水質汚濁や環境破壊を防ぐため、法令や条例にを満たす排水処理が必要です。
排水の処理方法にはどのようなものがあるでしょうか? 沈殿分離、濾過、化学処理、活性汚泥処理などがあります。複数を組み合わせて多段階処理を行うこともあります。
排水処理装置のメンテナンスはどのように行えばよいでしょうか? 日々の装置洗浄、点検を実施し、汚泥の除去や消耗部品の交換を行う必要があります。処理効率低下を未然に防ぐため、管理項目を決め、日常的にモニタリングすることも重要です。
村井健児

株式会社ファー・イースト・ネットワーク 代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒業、三菱銀行(現三菱UFJ)にて法人融資、株式会社宣伝会議にて環境雑誌に関わる業務を経て、2002年からプラスチックリサイクル業界で経験を積む。
2006年株式会社ファー・イースト・ネットワーク創業。プラスチックフクラップ売買、再生樹脂ペレット売買、リサイクル用機械・プラントの輸入販売を行う。


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