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プラスチックリサイクル工場の排水処理について仕組みや設備、法規制を解説

排水処理とは

排水処理とは、産業プロセスや生活排水から発生する廃水中に含まれる汚染物質を除去し、環境へ影響を及ぼさないとされる規制値以下の水質まで浄化するプロセスやシステムのことを指します。

プラスチックリサイクルにおいても、工場での製品製造や加工において水を使用する場合、ほとんどの工場で廃水が発生します。廃水には有機物や無機物が多く含まれており、そのままの状態では国や自治体が定めた水質基準に合格せず、下水道や河川に排水することができません。

そのため、工場運営を行う際には必ずといっていいほど排水処理が必要となってきます。

プラスチックリサイクルにおける排水の発生源

プラスチックリサイクル工場では、プラスチックの洗浄や製品ペレットを冷却する過程で、表面に付着しているゴミや油が排水に混ざることがあります。また、原料プラスチックの種類によっては有害物質が含まれる場合もあり、適切に処理する必要があります。

排水処理の仕組み

排水処理は複数の工程から成り立っています。物理的処理、化学処理、生物学的処理などの方法を組み合わせて、廃水中の汚染物質や有害物質を取り除いていきます。

ここではプラスチックリサイクル工場で行われる排水処理設備の構成例について見てみましょう。

油水分離槽

油と水が混ざった排水を分離するための工程です。比重分離や遠心分離などの方法を用いて、油と水を分けて取り除きます。取り除いた油は産業廃棄物として処分します。
工場機械側で油水分離装置を導入している場合は必要ありません。

下記記事では、プラスチックリサイクルでペレット品質向上に使用される真空ポンプから発生する油の分離装置を紹介しています。

真空ポンプ用の油水分離装置で廃液処理費用を削減

排水槽

排水の流量や濃度を均一化するための槽です。排水の急激な変動を抑え、次の処理工程への負担を軽減します。

シックナー

排水中の固形物や微粒子を沈殿させるための装置です。沈殿させるために、固形物や微粒子同士を凝集させて重くし、重力を利用して装置下部へ沈めます。凝集効率を高めるため、シックナーの手前で凝集剤を入れることもあります。
これにより排水中の浮遊物や異物を取り除き、排水を汚れの少ない状態にします。

装置としては円錐状タンクを使用したものが多いです。下記動画は下水道処理場などの大型タイプですが、構造理解の参考になると思います。

ベルトを用いて固形物等と水分を分ける方式のシックナーもあります。
下記はAlfa Laval社の装置の例です。

また、シックナーに排水を投入する際に凝集剤を使用することで、排水中の固形物や微粒子の凝集を加速させて大きな粒子にすることができます。粒子径が大きくなるほど沈降速度は早くなるため、異物除去効率が高まります。

細かい塊を作る一次凝集では、無機凝集剤としてPAC(ポリ塩化アルミニウム)などが使われます。無機凝集剤を使用すると排水のpHが変化するため、pH調整の中和剤も用いられます。

一次凝集の塊をさらに大きくする二次凝集では、主にアニオン系(負の電気を帯びたイオン)の高分子凝集剤が用いられます。

ろ過フィルター

シックナーで除去されなかった微細な固体や異物を取り除くためのフィルターです。排水を通すことで、浮遊物がフィルターに捕捉されます。
フィルターの目が粗すぎると異物が通り抜けてしまいますし、目が細かすぎるとすぐ詰まってしまいます。そのためプレフィルターとして目が粗いものを、ろ過フィルターとして目が細かいものを使うなど、両方を組合せて使うことが多いです。

調整槽

排水が環境へ影響を及ぼさないとされる規制値以下の水質まで浄化されているか、様々な項目を確認します。規制値を満たしていない場合は、薬液等で調整を行います。

スラリー貯留槽

シックナーで発生したスラリー(ここでは固体粒子の割合が高い、液体との混合物を指す)を一時貯留する槽です。シックナーと次工程の脱水機との運転調整を行うために必要な所です。

脱水機

凝集物の水分を減らすことで、産業廃棄物となる対象の重量を減らし、処理費用を削減します。脱水ケーキ(脱水後の固形物)は産業廃棄物として処理され、脱水した後の廃液は排水槽へ戻されます。

下記のANDRITZ GROUPの動画は、脱水機の例として分かりやすい内容です。

排水処理の法規制

工場や事業所から公共用水域へ水を排出する際に、排出量や排水成分が特定施設に該当する場合は、排水が適切に処理され定められた基準値を満たしていることを証明する書類を都道府県や地方自治体へ提出する必要があります。
水質汚濁防止法を基本に、下水道法、浄化槽法などが該当し、その上で各都道府県や地方自治体による上乗せ排水基準があるため、工場排水がどれに該当するか役所へ相談することをおすすめします。

排水基準を違反すると罰金や施設の停止命令などの重いペナルティが課せられますので、必ず規制を遵守しながら適切な排水処理を行うことが重要です。

法令などを詳しく調べる際は、政府サービスのe-gov法令検索が便利です。

排水基準で確認される代表的な項目

調整槽において、排水を工場外へ排出する前に、排水中の有害物質などが自治体等の規制値未満となっているか確認が必要です。

規制値は工場の業種、工場からの排水量、水質保全区域に該当するかなど、条件によって変化するため、工場がある県や自治体の環境局や環境保全課といった部署へ必ず確認をしましょう。

BOD(生物酸素要求量)

BOD(生物酸素要求量:Biochemical Oxygen Demand)は、排水の汚れ具合を表す指標です。
微生物が好気条件下で有機物を分解するために、どれだけの溶存酸素 (DO) を消費するかを示します。単位はmg/Lです。

排水中の有機物が多いほどより酸素を消費するため、BODの値は大きくなります。

BODを測定するテストは「BOD5」として知られています。これは、排水サンプルを暗所で20℃、5日間の条件で保温培養して、培養前後の酸素含有量の差異を測定するものです。

プラスチックリサイクル工場において、排水のBODの値が高くなる要因は主に下記です。

  • 原料プラスチック表面に付着している有機物。
  • 洗浄や加工において使用される洗浄剤や溶剤。
  • 洗浄や加工において発生する残渣や不純物が、微生物によって分解される過程で有機物増加。
  • 処理設備の仕様が不適切で、有機物が排水に残りBOD増加。

COD(化学的酸素要求量)

COD(化学的酸素要求量:Chemical Oxygen Demand)は、排水の汚れ具合を表す指標です。
過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウムなどの酸化剤を利用して、排水中に存在する有機および無機化学物質を化学酸化するために必要な酸素の量を示します。単位はmg/Lです。

BODと同じく、排水中の有機物が多いほどより酸素を消費するため、CODの値は大きくなります。また、CODは生物に限定されず排水中の酸化される物質すべてを評価するため、BODよりも大きな値を示します。
CODの測定は数時間で完了するため、日々の排水処理プロセスのモニタリングに利用されています。

プラスチックリサイクル工場において、排水のCODの値が高くなる要因は主に下記です。

  • 原料プラスチックに含まれる有害物質や添加剤が排水中に流れ出ることで、CODの値が増加。
  • 原料プラスチック表面に付着している有機物。
  • 洗浄や加工において使用される洗浄剤や溶剤。
  • 洗浄や加工において発生する残渣や不純物が、微生物によって分解される過程で有機物増加。
  • 処理設備の仕様が不適切で、有機物・無機物が排水に残りCOD増加。

SS(浮遊物質量)

SS(浮遊物質量:Suspended Solids)は、水中に懸濁している不溶解性物質の総量を示す指標です。
JISでは懸濁物質、環境基準や排水基準では浮遊物質といい、2mmの篩を通過し、1μmのろ過材上に残留する物質と定義されています。単位はmg/Lです。

SSの値が大きいと、浮遊物質が多いことを示すため水が濁り透明度が低い状態となることが多いですが、水の濁度(水の透明度を光学的に測定するもの)と厳密な相関はありません。

プラスチックリサイクル工場において、排水のSSの値が高くなる要因は主に下記です。

  • 原料プラスチック表面に付着している有機物や微粒子。
  • 破砕や加工において発生するプラスチックの微粒子。
  • 処理設備の仕様が不適切で、効果的な固液分離や沈殿が行われずSS増加。

n-Hex(ノルマルヘキサン抽出物質)

n-Hex(ノルマルヘキサン抽出物質:n-Hexane)は、排水中の有機溶剤や油分を示す指標です。
動植物油脂、脂肪酸、リン脂質などの脂肪酸誘導体、ワックスグリース、石油系炭化水素等の総称で、溶媒であるn-Hexにより抽出される不揮発性物質の含有量を表します。単位はmg/Lです。

プラスチックリサイクル工場では、洗浄や破砕の過程で使用される溶剤が排水中に残ることがあります。これにより、排水中のn-Hex含有量が上昇する可能性があります。

プラスチックリサイクル工場において、排水のn-Hexの値が高くなる要因は主に下記です。

  • 原料プラスチックに含まれている油分が流出。
  • 原料プラスチック表面に付着している油分。
  • 加工において使用される溶剤。
  • 処理設備の仕様が不適切で、油分分離が行われずn-Hex増加。

pH(水素イオン濃度指数)

pH(水素イオン濃度指数:Hydrogen Ion Concentration Index)は、排水の酸性、アルカリ性の度合いを示す指標です。pHが7で中性、7を超えるとアルカリ性、7未満では酸性を示します。

河川水では通常pH6.5~8.5の範囲に収まっています。

プラスチックリサイクル工場において、pHの値が変動する要因は主に下記です。

  • 洗浄や処理プロセスで使用する溶剤類。
  • 原料プラスチック表面に付着している薬品由来。
  • 排水工程内での化学反応。
  • 排水プロセスへの雨水流入(酸性雨など)。

各種有害物質

カドミウム及びその化合物、シアン化合物、鉛及びその化合物など、重金属類や有害化学物質も排水規制値が定められています。単位はmg/Lです。

工場で取り扱う物質によっては該当しない項目もありますが、運用時に一括検査し運用条件が変わらなければその後はモニタリングしなくてよいのか、それとも定期的にすべて検査しなければならないのか、自治体によって対応が異なるため、役所の担当部署へ必ず確認するようにしましょう。

プラスチックリサイクル工場において、排水の各種有害物質の値が高くなる要因は主に下記です。

  • 原料プラスチック表面に付着している化学物質由来。
  • (まず無いと思いますが)加工工程で使用する薬剤由来。

排水を利用して工場内の水消費量を削減する方法

一例ではありますが、上記のような排水を利用したクローズドループシステムを構築することで、工場内で使用する工業用水や市水の消費量を抑制し、水道代を削減することが可能です。

上記図の赤色部分は、本記事冒頭で紹介した排水処理設備の構成例に追加した箇所を表しています。

クローズドループシステムで排水を利用する流れは以下の通りです。

  • ろ過フィルターで綺麗になった水を貯水槽へと一時貯留します。
  • 貯留した水を押出機の冷却水として使用します。
  • 冷却に使用した水は、温水となり洗浄工程へと流れ、汚れている原料プラスチックの洗浄へと使われます。
  • 汚れた水は油水分離槽へと接続し、再度排水処理の工程へと流れていきます。

ここで紹介したクローズドループシステムはあくまで例ですので、実際は水利用率やエネルギー効率がより高くなるよう装置構成や運用条件を設計します。

排水処理設備と耐用年数

槽類、計器類、機械類、配管類など色々ありますが、当然仕様により耐用年数は変わります。
参考として、槽類であれば15-50年、計器類であれば5-10年、機械類で7-20年、配管類で10-30年程度のイメージです。

排水処理設備の価格

処理方法や処理量によって設計条件が大きく変わるため、この程度の金額という数字を示すのは非常に難しいです。1日の処理量が数十トン-数百トンレベルの処理施設の場合、全体で数千万-数億円規模の金額となるイメージです。特に下水処理場等でよく採用される生物処理装置の場合、大きな水槽が必要となることから費用が高額となります。

しかしプラスチックリサイクル工場であれば、ろ過フィルターを使用した物理処理や、薬品やバブリングを用いた化学処理・物理化学処理で十分であることがほとんどです。

排水処理設備のコストとして、イニシャルコストだけでなく、ランニングコストとして下水料金や汚泥の産廃処理費、薬剤費、フィルター等消耗品費なども必要ですので留意しておきましょう。

まとめ

排水処理とは、工業プロセスや生活排水からの廃水中の汚染物質を取り除き、環境への影響を規制値以下の水質まで浄化するプロセスを指します。プラスチックリサイクルにおいても、工場の製造や加工によって発生する廃水を適切に処理する必要があります。

プラスチックリサイクル工場での排水の主な発生源は、プラスチックの洗浄や製品ペレットの冷却過程です。この際、表面に付着しているゴミや油が排水に混ざることがあります。原料プラスチックの種類によっては有害物質も含まれ、これらを適切に処理する必要があります。

排水処理は物理的、化学的、生物学的な処理工程で行われます。以下は排水処理設備の構成例です。

  • 油水分離槽:油と水を分離し、油を産業廃棄物として処理します。
  • 排水槽:流量や濃度を均一化し、処理工程への負担を軽減します。
  • シックナー:固形物を沈殿させるための装置です。
  • ろ過フィルター:微細な固体や異物を取り除きます
  • 調整槽:水質を確認し、下水道等への排水前に必要に応じて調整を行います。
  • スラリー貯留槽:処理量の調整を行うため、スラリーを貯留します
  • 脱水機:スラリーの水分を減少させ、産廃処理費を削減します。

排水処理には法規制があり、水質汚濁防止法、下水道法、浄化槽法などがあり、地域によって上乗せ排水基準が設定されていることもあります。

排水基準で確認される主な項目は、BOD、COD、SS、n-Hexなどです。これらは有機物や有害物質の量、浮遊物の量、有機溶剤や油分を示すものです。pHも監視され、酸性やアルカリ性の度合いを調整します。また、重金属類や有害化学物質も規制対象です。

排水処理についてご相談したい場合は、お問い合わせより連絡をお願いいたします。

また弊社では排水処理設備のご案内もいたしております。詳しくお知りになりたい方は下記記事も参照してみてください。

排水処理設備 廃プラ洗浄の水処理を低コストで行うには

Q&A

質問 回答
プラスチックリサイクル工場の排水処理における主な課題は何ですか? 回収してきた原料プラスチックの状態により、様々な種類の有機物や無機物が含まれる可能性があることです。これらの汚染物質を効果的に除去するためには、多様な処理技術が必要です。また洗浄工程などで水を大量に使用するため、エネルギーコストや環境負荷の軽減も求められています。
プラスチックリサイクル工場の排水処理負荷を軽減するにはどのような方法がありますか? 原料プラスチックの調達見直し、洗浄工程までの外注化、処理プロセスや機械の見直し・適正化、モニタリングによるフィードバック制御導入などがあります。
プラスチックリサイクル工場の排水処理のトレンドは何ですか? クローズドループシステムを組み排水を再利用することで水の消費量を削減したり、センサーやIoT技術を活用した排水処理のリアルタイムモニタリングなどがトレンドです。
村井健児

株式会社ファー・イースト・ネットワーク 代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒業、三菱銀行(現三菱UFJ)にて法人融資、株式会社宣伝会議にて環境雑誌に関わる業務を経て、2002年からプラスチックリサイクル業界で経験を積む。
2006年株式会社ファー・イースト・ネットワーク創業。プラスチックフクラップ売買、再生樹脂ペレット売買、リサイクル用機械・プラントの輸入販売を行う。


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