排水処理の方法と種類 種類別に特徴や基本を解説

排水処理には様々な種類があり、これを行えば全て対応できるというプロセスは無く、排水中に含まれる成分に応じて処理プロセスを考える必要があります。そのため、工場を作る前であれば、排水成分を予想してサンプルを作成し、排水処理メーカーと一緒に処理プロセスを考えていくことになります。

この記事では、下記のような様々な排水処理方法について、基本原理や対象成分について解説しています。

種類 処理方法
沈殿分離法 排水を沈殿分離槽に貯め、水との比重差を利用して排水中の異物を沈殿分離します。主に排水中の重金属(鉄、鉛、カドミウムなど)や浮遊粒子の除去に用いられます。
浮上分離法 排水を加圧浮上槽に貯め、排水中の異物比重を空気の泡で見かけ上軽くし、水との比重差を利用して排水中の異物を浮上分離します。
生物処理法 微生物が有機物を分解することを利用して、有機物や窒素、リンを処理します。
油水分離 水と油の比重差を利用して、排水から油を分離します。基本的には水面に浮いた油を回収します。
オゾン処理 オゾンの強い酸化力を活かし、排水の殺菌、脱色、脱臭、有機物分解などを行います。

排水処理の全体概要については、下記記事でまとめて紹介していますので、知識を深めたい方はご覧になってみてください。

排水処理とは 設備やフロー、仕組み、法律について解説

弊社で取り扱っている排水処理設備は、下記記事リンクよりご覧になれます。
詳しく知りたい方は、お問い合わせよりご連絡をお願いします。

排水処理設備 廃プラ洗浄の水処理を低コストで行うには

沈殿分離法

排水を沈殿分離槽に貯め、水との比重差を利用して排水中の異物を沈殿分離します。主に排水中の重金属(鉄、鉛、カドミウムなど)や浮遊粒子の除去に用いられます。

水酸化物法

重金属を含んだ排水に対し、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムを添加し、pHをアルカリ側に調整することで金属イオンを不溶性水酸化物として析出させ、重金属を排水から分離します。

水酸化物を作るためのpH条件は、重金属によって異なります(下図)。例えば、ニッケル(Ni2+)はpH10前後が最適な不溶化条件です。亜鉛(Zn2+)やクロム(Cr3+)はpHを上げすぎると、排水へ再溶解してくるので注意が必要です。

添加剤により、沈殿物量や薬剤ランニングコストに差が出てくるため、排水種や目的に応じて添加剤の使い分けを行います。

共沈法

塩化第二鉄液 出典:㈱島田商店

共沈現象(ある物質が水溶液中から沈殿する際、沈殿条件に達していない他物質も誘発されて沈殿する現象)を利用し、排水中の重金属イオンを分離します。アルカリ沈殿法よりも、排水中の金属イオン濃度を低下させることができます。

添加剤としては塩化第二鉄やポリ塩化アルミニウム(PAC)を用い、対象金属イオンやpHによって使い分けをします。

硫化物法

硫化ナトリウム 出典:ナガオ㈱

硫化水素ナトリウムや硫化ナトリウムなどの硫化剤を排水へ添加することで、排水中の重金属イオンを金属硫化物として析出させ、重金属を排水から分離します。硫化物は水酸化物よりも水に溶けにくく、排水中の重金属濃度をより低くすることが可能です。

一方で、硫化物の粒子が細かく沈殿性が悪いため、PACやポリ硫酸第二鉄といった凝集剤を併用します。また、硫化剤の滴下量制御が必要、酸性下で硫化物処理を行うと硫化水素ガスが発生するといった問題もあるため、プロセス・機器設計に注意が必要です。

置換法

排水中の重金属イオンが錯体(重金属の周りに配位子と呼ばれる分子団等が結合した化合物)となっており、キレート結合という状態で安定的になっていると、水酸化物法では処理できない場合が多いです。このような場合に用いられるのが置換法です。

置換法ではキレート凝集剤を用いることで、キレート化している重金属と無害な対イオンとを置換し、重金属をキレート結合から取り出すことで処理しやすい状態にします。

キレート凝集剤としてはEDTA(エチレンジアミン4酢酸)やDTPA(ジアミノ2ヒドロキシプロパン2酢酸)など多くの種類があり、目的に応じて使い分けを行います。

浮上分離法

排水中の異物に空気の泡をまとわせ、異物の重さを軽くすることで、排水中の異物を浮上分離します。排水中の異物が沈殿しづらい条件の場合は、加圧浮上が有効となります。

前処理として、凝集槽で薬剤を添加しフロック(塊)を形成することで、泡が付着しやすいようにします。その後、加圧水(加圧して空気を溶け込ませた水)やキャビテーション、ベンチュリー効果を利用して泡を発生させ、異物に泡を付着させます。

下記動画では、加圧浮上させたフロックをスカムスキーマで除去する様子を見ることができます。

シーズ株式会社:加圧浮上処理装置(PFD)

生物処理法

微生物が有機物を分解することを利用して、有機物や窒素、リンを処理します。

好気性処理法では、酸素条件下で活動する微生物を活用し、排水中の有機物を分解します。
嫌気性処理法では、酸素が存在しない環境下(もしくは酸素濃度が低い条件下)で活動する微生物を活用し、有機物を分解します。

好気性処置法と嫌気性処理法では、有機物を分解して出来る副生性物や微生物の生育速度・管理条件、設備構成が異なるため、排水事業者がどのように排水を処理・活用したいかで選択します。そのため、検討を詳しく進めたい方は、排水処理業者へ相談することをおすすめします。

好気性処理法

酸素条件下で生育する好気性微生物を用いて、有機物を分解します。生存と代謝のために酸素を利用して有機物を酸化分解するため、水中に空気を吹き込む曝気環境(液中に酸素を供給する環境)で使用されます。
微生物フロック(集合体、塊)により形成される活性汚泥(原生動物や多細胞生物などの微生物が集まって形成する汚泥)を利用した活性汚泥法が代表的です。

標準活性汚泥法

以下に活性汚泥法の基本的な設備フローを示します。24時間連続運転が基本のため、活性汚泥を形成する微生物の種類や量、濃度管理がかかせません。

活性汚泥法の基本フロー

工程 機能
スクリーン 排水中に含まれる、比較的大きな異物を取り除きます。
流量調整槽 排水の流量や濃度の急激な変動を抑え、
次の処理工程への負担を軽減します。
曝気槽 活性汚泥に空気(酸素)を送り込みながら排水と混合し、微生物の働きによって有機物を分解することでBOD(生物酸素要求量。排水の汚れ具合を表す指標)を低下させます。
沈殿槽 活性汚泥フロックを沈殿させ、キレイになった水は処理水として流します。活性汚泥の一部は必要な量だけ曝気槽へ戻し、残りは余剰汚泥として処分します。

長時間曝気法

基本的な設備フローは上記の標準活性汚泥法と同じですが、以下の様な違いがあります。

  1. 曝気槽内の活性汚泥濃度を濃くし、曝気時間も増やします。
  2. 曝気槽で発生する汚泥量が減り、沈殿槽など後処理設備を小型化できます。
  3. 大規模設備には向かないため、小規模排水処理で利用されます。

膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio Reactor)

曝気槽へ設置するMF膜 出典:Pureco Ltd

活性汚泥法では、排水中の水分と汚泥を分離するため沈殿槽が必要でした。しかし、膜分離活性汚泥法では、MF膜(精密ろ過膜。Micro Filtration membrane)等を用いて水分と汚泥を分離するため、沈殿槽が不要となります。

膜分離活性汚泥法の基本フロー

工程 機能
スクリーン 排水中に含まれる、比較的大きな異物を取り除きます。
流量調整槽 排水の流量や濃度の急激な変動を抑え、
次の処理工程への負担を軽減します。
曝気槽 活性汚泥に空気(酸素)を送り込みながら排水と混合し、微生物の働きによって有機物を分解することでBOD(生物酸素要求量。排水の汚れ具合を表す指標)を低下させます。
処理水はMF膜を通すため、処理水に懸濁物質(水中に存在する不溶解性物質)は含まれず、後段の沈殿槽が不要となります。

嫌気性処理法

酸素が存在しない環境下で生育する嫌気性微生物を用いて、有機物を分解します。主にメタン菌が使用され、有機物をメタンガスや窒素ガスに分解するため、ここで発生するメタンガスを適切に処理すれば、代替エネルギー源として使用可能です。

USAB法(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)

高濃度の糖類など、食品排水処理に用いられます。グラニュールという嫌気性菌微生物の担体(微生物の土台となるもの)を用いて有機物を分解します。好気性処理法だけの設備よりも、設置面積や建設費用を抑えることが可能です。

グラニュール外観 出典:(独)農畜産業振興機構

USAB法の基本フロー

工程 機能
スクリーン 排水中に含まれる、比較的大きな異物を取り除きます。
調整槽 排水のpHや濃度を調整します。
反応槽 排水を槽下部から注入し、グラニュール層を通過させることで有機物を分解し、処理水とメタンガスを得ます。
得られたメタンガスは、ガスホルダーに貯留し、バイオガス発電機等の燃料として使用されます。

油水分離

水と油の比重差を利用して、排水から油を分離します。基本的には水面に浮いた油を回収します。
油の粒子が小さいと浮上速度が遅く、水と油が分離しきりません。そのため、分離槽を複数設けることで、後段に油の少ない排水が送られる構造とし、油を効率的に分離できるようになっています。

油水分離層の構造 出典:㈱トピックス

下記動画では、油水分離槽の流れが分かりやすく説明されています。

Y.E.I. 油水分離槽

API

API(アメリカ石油協会。American Petroleum Institute)の設計基準に基づいた油水分離装置です。油水分離槽の中にかき寄せ機(スキーマ)があり、浮上油を回収します。

API基本図

油滴経150μm程度までの分離に用いられますが、スペースを広く必要とし、機械部品もあるためメンテナンスの手間がかかります。また、油臭等が発散します。

PPI(Parallel Plate Interceptor)もしくはTPI(Tilted Plate Interceptor)

油水分離槽の中に、平板を45度に傾斜した状態で取り付けることで、油の分離性能を上げています。平板は正面から見ると「V」の形になっています。

PPIタイプの油水分離 出典:AutomationForum.co

油滴経50~60μm程度までの分離に用いられ、APIと比較すると設置面積は約半分で、可動部もないためメンテナンス性に優れています。フードで覆われているため、臭気は少なめです。

CPI(Corrugated Plate Interceptor)

PPIの平板が波板に置き換えられており、APIと比較し設置面積は約1/3ほどです。
装置がどのように動作するかは、下記動画でイメージを確認することができます。

Alphamech Water Treatment OIL WATER SEPARATOR

オゾン処理

オゾンの強い酸化力を活かし、排水の殺菌、脱色、脱臭、有機物分解などを行います。オゾンにより難分解性物質が分解しやすくなり、汚泥発生量が減るといったようなメリットもあります。

オゾン処理単体ですべて解決するということはないため、処理前後で活性炭を利用して排水中の物質濃度を下げたり、有機物分解残渣を処理します。

まとめ

排水処理の種類には様々な方法があり、排水中の異物や汚染物質に応じて最適なものを選択します。以下に、排水処理の主要な手法をまとめます。

種類 機能
水酸化物法
  • 水酸化ナトリウムなどでpHを調整し、重金属を不溶性水酸化物として沈殿させる。
  • 金属イオンの溶解度とpHの関係に注意が必要。
共沈法
  • 鉄塩などの添加剤で重金属を共沈させて金属イオンを除去する。
  • 水酸化物法よりも金属イオンを低濃度に除去可能。
硫化物法
  • 硫化剤で重金属を硫化物として沈殿させる。
  • 水酸化物法よりも金属イオンを低濃度に除去可能。
  • 硫化水素ガス発生など、安全性に注意が必要。
置換法
  • キレート剤で重金属と結合し、水溶性の錯体化合物を形成して金属イオンを処理しやすい状態にする。
  • 水酸化物法では処理できない重金属も除去可能。
浮上分離法
  • 空気泡付着により異物を浮上させて分離する。
  • 沈殿しづらい微細な物質や油脂などにも有効。
好気性処理法
  • 酸素存在下で微生物が有機物を分解する。
  • 活性汚泥法が代表的な処理方法。
  • BOD(生物化学的酸素要求量)の低減に効果的。
嫌気性処理法
  • 酸素非存在下で微生物が有機物を分解する。
  • 発生するメタンガスでエネルギー回収も可能。
油水分離
  • 水と油の比重差を利用して分離する。
  • API、PPI、CPIといった装置が用いられる。
オゾン処理
  • オゾンの酸化力により脱臭や有機物分解をする。
  • 活性炭を併用することで処理効果を向上させる。

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排水処理設備 廃プラ洗浄の水処理を低コストで行うには

Q&A

質問 回答
排水処理にはどんな種類がありますか?

排水処理には、大きく分けて以下の4種類があります。

  • 物理処理:ろ過、沈殿、浮上など
  • 化学処理: 酸化、還元、凝集など
  • 物理化学処理:活性炭、イオン交換など
  • 生物処理:活性汚泥、嫌気性処理など
排水処理に関わる法律にはどのようなものがありますか? 水質汚濁防止法を基本に、下水道法、浄化槽法などが排水処理に関わります。
排水処理の種類はどのように決めますか? 実際の工場で発生すると想定される排水サンプルを用意し、複数の排水処理方法を組み合わせつつ、反応時間や薬剤量を見て処理プロセスを決定していきます。


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