2025年は、世界のプラスチックリサイクル業界にとって「概念の構築」を終え、「社会実装と経済圏の確立」へと移行した転換点となりました。世界的な法規制の具体化、ケミカルリサイクルの商用化、そして日本国内での資源循環モデルの定着が重なり、業界はかつてない活況と変革のなかにあります。
〜循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実装と産業自立への道〜
1. 2025年の振り返り:世界市場の劇的な拡大と構造変化
2025年の世界プラスチックリサイクル市場は、予測を上回るペースで成長を遂げました。最新の市場データによると、世界のリサイクルプラスチック市場規模は2025年に約861.1億ドルに達したと推計されています。これは、2035年までに1,902.5億ドルに達するという長期予測(CAGR 8.25%)の重要なマイルストーンとなりました。
【世界市場の地域別動向】
- アジア太平洋地域(APAC):グローバルリーダーの台頭2025年、アジアは市場シェアの約49%を占める世界最大のハブとなりました。中国、インド、東南アジア諸国が、単なる「世界のゴミ受け」から「資源循環の供給基地」へと変貌。特に中国は、自国内での高度な選別・加工インフラの整備を完了し、高品質な再生ペレットの主要供給国としての地位を固めました。
- 北米:市況回復と産業系リサイクルの成長北米市場は、複雑な経済環境下でも市況の回復を示しました。特に、家庭系廃棄物よりも不純物が少なく効率的な「産業系プラスチック」の回収・再資源化がビジネスモデルとして確立。州レベルでのEPR(拡大生産者責任)の普及が、ブランド企業の再生材利用を強力に後押ししました。
- 欧州:高コスト構造と規制の攻防欧州は依然として世界で最も厳しい環境基準を維持していますが、2025年は高エネルギーコストと、安価なバージン材(新品)との価格競争に苦しみました。これに対抗するため、欧州委員会は低品質なプラスチック輸入に対する監視を強化。2026年の新規則施行を見据えた「守りのインフラ整備」が進んだ一年でした。
【経済的課題:コストの壁】
市場が拡大する一方で、2025年は「価格」の課題が浮き彫りになりました。特にアジアや米国では、再生プラスチック原料(リサイクルペレット)の価格が、石油由来のバージン材よりも高騰する局面が見られました。このコスト構造の逆転は、企業のESG投資意欲を試す試金石となりました。
2. 日本国内市場:制度の深化と「動静脈連携」の具体化
日本市場も堅調な伸びを見せています。2024年に約35.8億ドルだった市場規模は、2025年も年平均成長率(CAGR)約4.4%から7.5%のレンジで推移し、着実な設備投資が進みました。
(1) プラスチック資源循環促進法(プラ新法)の本格運用
2022年の施行から3年が経過し、2025年は実質的な「成果」を問われるフェーズに入りました。
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一括回収の一般化: 自治体による「容器包装」と「製品」の区分をなくした回収が全国に浸透し、リサイクル原料の「量」が飛躍的に増大しました。
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デザイン・フォー・リサイクル(DfR): 設計段階からリサイクルを考慮した製品が市場の主流となり、単一素材化(モノマテリアル化)が進んだことで、選別コストの低減に寄与しました。
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カオスマップ2025の発表: 国内のリサイクル事業領域が可視化され、異業種間の連携や投資判断が容易になりました。
(2) 産業構造の変化:静脈産業の「動脈化」
かつての「廃棄物処理業者」が、高度な素材を提供する「素材メーカー」へと脱皮する動きが加速しました。大手化学メーカー(三菱ケミカル、ENEOS、住友化学など)がリサイクル事業の最上流に位置づけられ、回収業者との戦略的提携が相次ぎました。
3. 2025年の技術革新:ケミカルリサイクルとデジタル変革
2025年は、長年「実験段階」にあった技術が、ついに商用規模での実証を終え、量産段階へと移行した年として記憶されます。
① ケミカルリサイクルの商用化
マテリアルリサイクルでは困難だった「使用済みプラ」や「混合プラ」を、分子レベルで分解して再びナフサやモノマーに戻す技術が本格稼働しました。これにより、食品包装などの高度な衛生基準が求められる分野への再生材供給が可能となりました。
② AIとロボティクスによる高度選別
AIカメラと近赤外線センサーを搭載した高速選別ロボットが一般化しました。従来、人の手で行われていた微細な樹脂判別を自動化することで、リサイクル材の「純度」が劇的に向上。同時に、異物混入によるロス率が大幅に改善されました。
③ デジタル・トレーサビリティの確立
再生材の「出自」を証明するため、ブロックチェーンやデジタルパスポート(DPP)が導入されました。リコー主催の「TRIBUS 2025」のようなアクセラレータープログラムから生まれたスタートアップ技術が、サプライチェーン全体の透明性を担保するインフラとして採用され始めています。
4. 2026年の展望:真の「循環型産業」としての自立
2026年は、これまでの「準備期間」が終わり、法規制、市場、技術が完全に噛み合う「実装元年」となります。
(1) 規制強化がもたらす「強制的な市場形成」
2026年、世界の潮流は「自主的な取り組み」から「法的義務」へと完全に移行します。
- EU PPWR(包装・包装廃棄物規則)の衝撃:2026年後半、EUでのPPWRが実運用に入ります。輸入プラスチックに対する別個の通関コードの導入や、リサイクル成分の計測に関する法的枠組みが施行されます。これにより、再生材比率を満たさない製品は欧州市場から締め出されることになります。
- 日本における再生原料使用義務の議論:国内でも「資源有効利用促進法」に基づき、特定の業界(自動車、家電等)に対する再生材使用率の数値目標がより厳格化されます。2026年は、この目標が「企業の競争力」を左右する最重要KPIとなります。
(2) ケミカルリサイクルの「量産化」と「コストダウン」
2025年に立ち上がった大規模プラントが安定稼働に入り、2026年は供給量が飛躍的に増大します。
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次世代技術の台頭: 韓国で開発が進むプラズマトーチを用いた超高速分解技術や、酵素によるプラ分解技術などが、いよいよ産業利用のステージに到達します。
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国際取引の活発化: ケミカルリサイクルによって生成された「再生ナフサ」や「再生油」の国際的な取引基準が整備され、国境を越えた資源循環が加速します。
(3) 再生材市場の「二極化」と「適材適所」
2026年の市場は、用途に応じて明確に二分されます。
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ハイエンド市場: 食品接触用途や医療、精密機器向け。ケミカルリサイクル由来の高品質材が、バージン材と同等の高値で取引されます。
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コモディティ市場: 土木資材、物流パレット、雑貨向け。マテリアルリサイクル由来の低コスト材が、徹底した効率化のもとで大量消費されます。
(4) 企業戦略のシフト
2026年、先進的な企業は「リサイクル材をどこから買うか」という調達の視点から、「リサイクル材をいかに安定確保するか」という資源防衛の視点へシフトします。
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垂直統合: ブランドオーナー(消費財メーカー)がリサイクル業者に直接出資、あるいは長期買い取り契約を結び、サプライチェーンを囲い込む動きが加速すると思われます。
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地域循環モデル: 自治体・企業・住民が一体となった「地域循環共生圏」が、単なる環境運動ではなく、地産地消の資源供給システムとして機能し始めます。
5. 継続する課題と克服すべきリスク
2026年においても、解決すべき課題は依然として存在します。
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原料価格: 石油価格の下落により、再生材のコスト競争力が一時的に損なわれるリスク。これには、炭素税やリサイクル賦課金などの政策的支援が不可欠です。
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品質基準の標準化: 地域や企業によって異なる「再生材の品質基準」の統一。国際的な認証制度の未整備領域が、貿易の障壁となる可能性があります。
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役割分担の曖昧さ: 自治体(税金による回収)と民間企業(営利目的のリサイクル)の境界線。特に回収コストの負担割合に関する議論は、2026年も継続的な争点となります。
6. 結論:2026年を勝ち抜くためのアクション
2025年の振り返りから明らかなように、プラスチックリサイクルはもはや「廃棄物処理」ではなく、「持続可能な資源供給システム」という立派な成長産業となりました。
2026年、業界関係者に求められるのは以下の三点です。
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技術の「複合化」: マテリアル、ケミカル、サーマル(熱回収)を対立させるのではなく、素材の状態に応じて最適に組み合わせるハイブリッド戦略。
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データの「透明化」: デジタルパスポート等を用い、環境価値を定量的に証明できる能力。
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グローバルな「協調」: 各国の異なる規制(EUのPPWRやアジアのEPRなど)を横断的に理解し、ボーダレスな循環網を構築する視点。
日本は、緻密な分別の国民性と世界最先端の化学技術を併せ持っています。2026年、日本がアジア、そして世界のサーキュラーエコノミーの司令塔(ハブ)として機能できるか。そのための技術・政策・投資の全方位的な取り組みが、かつてない熱量で求められる一年となるでしょう。
