「生まれ変わり」は本当にあると思いますか?
漫画や小説のモチーフにもよくなっていますね。「私はマリー・アントワネットの生まれ変わりよ!」「私の前世は鳥だったに違いない♪」なんて想像するのも楽しいかもしれません。
けれど、生まれ変わりは架空の現象ではありません。
エネルギーはかたちを変えてずっと存在し続けます。
電気エネルギーが熱エネルギーに、熱エネルギーが力学的エネルギーに、力学的エネルギーが音エネルギーに・・・というように。これをエネルギー保存則といいます。
そして物質もエネルギーを持っています。そのエネルギーは元の物質としてのかたちを失っても別のエネルギーにかたちをかえて残っているのです。まるで生まれ変わりのようではないでしょうか。
生まれかわりは特別なものではありません。私たちの身近にもあふれています。
例えば、今、どのようにしてこの記事をご覧になっていますか?
パソコン、タブレット、スマホではないでしょうか。これらにはプラスチックが使われています。そしてプラスチックにも転生のドラマが潜んでいます。
今回は、プラスチックのエネルギーがどのように生まれ変わっていくのかをたどってみましょう。
プラスチックとは?
プラスチックの前世
生まれ変わる・・・ということはプラスチックには前世もあるのか?という疑問が生じるでしょう。
結論からいうとあります。それは石油です。
プラスチックは水や空気のように自然界に初めから存在しているわけではなく、石油を精製する過程で生まれるナフサという成分を主原料に作られています。
ちなみに、プラスチックの前前前世はプランクトンや珪藻などの植物でした。
それが死んで堆積しケロジェンという混合物となり(前前世)、さらに石油(前世)となり、プラスチックになります。
プランクトンとプラスチックなんて、もう全く別物ですが、映画「君の名は。」の主題歌は、こんなにさかのぼらないといけないんですね!
プラスチックの特徴と構造
プラスチックの語源はギリシャ語の形容詞「plastikos(可塑性のある)」であり、日本では別名「合成樹脂」ともよばれます。
すなわち、プラスチックは「石油由来で人工的に作られた、樹脂のように自由に形を作ることができるもの」を指します。ただしこの定義を満たしていても、ゴムや接着剤は一般的にはプラスチックに含まれないケースが多いようです。
何故プラスチックは形を変えられるのかというと、その秘密はプラスチックの構造や組成にあります。
プラスチックは、炭素(C)と水素(H)を主成分とした、分子の数が多い高分子化合物[1]です。
この分子の結合の仕方によって成型方法が異なるので、プラスチックは2種類に分けられます。
- 熱可塑性プラスチック・・・鎖状の高分子で、熱すると分子の熱運動が活発になって分子間が離れるため、結合力(共有結合)が弱くなり流動体となる。冷やすと結合力が強くなりそのままの形状を保つ。例)ポリエチレンテレフタラート(PET:ペットボトル)、ポリエチレン(PE:コンビニ袋)、ポリ塩化ビニル(PVC:ビニール袋)、PAポリアミド(ナイロン)など
- 熱硬化性プラスチック・・・網状の高分子で、成形材料の段階では流動体であり、加熱すると硬化(架橋結合)する。例)フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなど
熱可塑性はチョコレート型(熱してドロドロにし型に入れて冷やすと固まる)、熱硬化性はホットケーキ型(ドロドロの状態を熱して固める)、とイメージするとわかりやすいかもしれません。
プラスチックは、形を変えられるという性質以外にも次のような様々な特徴を持っています。
<プラスチックの特徴>
- 軽い
- 大量生産できる
- 耐久性が高い
- 密閉性に優れている
- 透明性がある
- 絶縁性が高い
- 断熱性が高い
- 錆・腐食がない
そのため、食品の包装容器や医療器具、電化製品、自動車など、日常のいたるところで活躍し、私たちが快適に暮らせるように生活を支えてくれています。
プラスチックの歴史
では、プラスチックはいつ・どのように誕生したのでしょう。
プラスチックが石油から生まれ変わり、発展してきた経緯をみてみましょう。
<プラスチックの歴史>
1835年 フランス人・ルニョーがポリ塩化ビニルの粉末を作成
1869年 アメリカで象牙製ビリヤードの玉の代替え材料としてセルロイドを開発
1907年 ニューヨークでベルギー人・ベークランドが石炭から炭化水素を抽出しフェノール樹脂を開発
その後、20世紀半ば頃に様々なプラスチックが発明され、20世紀後半から生産量が爆発的に増加しました。
1975年には5,000万トンだった生産量が2015年には4億トンにもなり、40年で8倍に達しています。
プラスチックはもとから自然界に存在したわけではなく、人間が製造した歴史の浅い素材です。そのため、付き合い方がまだ確立されておらず、利用にあたって様々な問題が生じています。現在は上手にプラスチックと付き合っていくために試行錯誤がなされている状態です。
何故リサイクルが大切なのか
プラスチック利用の問題点とは?
それでは問題点とは具体的に何なのでしょうか。
主に次の3点が挙げられます。
- 埋め立て地の不足
- 石油資源の枯渇
- 生態系への影響
プラスチックは石油を原料として人工的に製造した物質です。
元から自然界に存在していたものではないので、捨てて放っておいても分解・還元されず、ずっとそのままの状態で存在し続けます。そのためプラスチックがどんどん生み出されると、限りある埋立地は飽和状態になってしまいます。
ドラえもんの「バイバイン」という回を見たことがあるでしょうか?
バイバインとは物体に1滴垂らすと、その物体が5分に1回2倍に増えていくという道具です。
危うくバイバインを垂らした栗まんじゅうが、地球を埋め尽くしそうになりピンチを迎える・・・という話です。
プラスチックもここまで極端ではないにせよ、使い終わってそのまま放置したら近い将来こうなりかねません。
また、石油資源に限りがあることも憂慮の原因です。プランクトンや藻がケロジェンを経て石油に生まれ変わるまでには長い年月がかかります。無尽蔵に存在しているわけではないので、今のペースで石油資源をバンバン使い続けるとやがて枯渇してしまいます。
さらに、プラスチックが小さい破片となって、動物たちが食べたり飲みこんだりすることで生態系に影響を及ぼし、深刻な海洋汚染を引き起こしています。
海洋汚染についてはこちらで詳しく述べています。
【海洋プラスチック問題とは】をご参照ください。
解決するための対策「3R」
そこで現在は、世界的な対策として3R :Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)が推奨されています。
- Reduce(リデュース)・・・廃プラスチック自体の発生量を減らすこと。プラスチック製品を製造しない、使用しない方向性。
- Reuse(リユース)・・・限りある資源を廃プラスチックとして使い捨て処分せず、何度も繰り返し使うこと。マイバッグ利用の推進など。
- Recycle(リサイクル)・・・廃プラスチックを違うかたちで有効利用すること。
対策の優先順位は1、2、3の順で、まず発生させない(生まれさせない)、次に再使用(最大限に使う)、最後に再利用(生まれ変わらせる)となっています。
1、2の対策は個人の意識に委ねられるところが大きく限界があるため、3つめのリサイクルは廃プラスチックの問題を減らす最後の砦として重要な役割を担っています。
生まれ変わって再活躍
生まれ変わるために
さて、廃プラスチックを無事にリサイクルして生まれ変わらせるためには、ゴミの分別をしっかりと行うことが必要です。
ゴミの分け方は自治体によって異なりますが、大まかには次のような分類と扱いになります。
- 可燃ゴミ → 焼却処分
- 不燃ゴミ → 埋め立て処分
- 資源ゴミ → リサイクル
プラスチックはどの分類にも当てはまりますが、「容器包装リサイクル法」の対象となる製品には図1.の識別マークが表示されています。従って、図1.のマークがついている製品は資源ゴミとして分別し、リサイクルできるようにしましょう。
識別マークが付けられていないプラスチックは自治体の指示により可燃ゴミ、不燃ゴミのどちらかに分別してください。
「容器包装リサイクル法」の対象となるプラスチック製品のうち、PET(ポリエチレンテレフタラート)製には左側の「PET」マークが、その他には全て右の「プラ」マークが使用されています。
「PET」マークの真ん中にある数字はアメリカが制定した材質を区分するための番号で、以下のように割り振られています。
<アメリカ制定の材質区分番号>
1 → ポリエチレンテレフタラートPET
2 → 高密度ポリエチレンPE
3 → 塩化ビニルPVC
4 → 低密度ポリエチレンPE
5 → ポリプロピレンPP
6 → スチロール樹脂、ポリスチレンPS
7 → 複合材、その他
日本では2~7番にまとめて「プラ」マークが割り振られています。
生まれ変わりの3つのルート
廃プラスチックのリサイクルには次の3つの生まれ変わりルートがあります。
- マテリアルリサイクル・・・他の製品への生まれ変わり
- ケミカルリサイクル・・・化学原料や燃料への生まれ変わり
- サーマルリサイクル・・・熱エネルギーへの生まれ変わり
各リサイクル方法(生まれ変わりルート)の特徴を表1.に示します。
表1.各リサイクル方法(生まれ変わりルート)の特徴
リサイクル方法 | 方法 | メリット | デメリット | 例 |
マテリアル | 粉砕・融解・加工 | ・石油資源の節約 | ・CO2排出量が多い | ・ペットボトル→衣服 ・発泡スチロール→防音断熱材 |
ケミカル | 薬品などで化学的に分解 | ・石油資源の節約 ・ CO2排出量が少ない |
・費用が莫大 ・別のエネルギーが必要でリサイクルのメリットが少ない |
・油化 ・ガス化 ・高炉・コークス炉の還元剤 |
サーマル | 燃焼して熱回収 | ・石油燃料の節約 | ・CO2排出量が多い※ | ・発電 ・暖房 |
※サーマルリサイクルや焼却処分において、以前は人体に有害なダイオキシンが発生すると考えられていた。しかし、現在はダイオキシン発生が燃焼対象ではなく燃焼条件によるということがわかっているため、サーマルリサイクルのデメリットにダイオキシン発生は含めていない。
参照:塩ビ工業・環境協会
生まれ変わりの流れ
プラスチックの生まれ変わりフローを図2.に示します。
2015年以降のデータによると、約87%のプラスチックがリサイクルされ、生まれ変わって再活躍することに成功しています。
リサイクルの現状とこれから
リサイクルと処分の内訳
日本における廃プラスチックのリサイクルと処分の内訳比率を図3.に円グラフで示します。
日本ではサーマルリサイクルが過半数で、次いでマテリアル、単純焼却、埋め立てと続くことがわかります。
国外ではサーマルリサイクルをリサイクルに含めていないところもあり、その基準で判断すると、日本は廃プラスチックのリサイクル率は25%に留まります。そうするとプラスチックの4人に1人しか生まれ変われないことになってしまいます。
リサイクルの課題
廃プラスチックには次の2つの課題があります。
- 輸出処理
- 海洋汚染
国内でのリサイクルには手間と費用がかかるため、以前は廃プラスチックを外国(中国、台湾など)へ輸出していました。
しかし、主な受け入れ国であった中国が2017年に廃プラスチックの輸入を規制し、2020年にはバーゼル条約の規制対象に廃プラスチックが加わりました。その影響で、日本からの廃プラスチックの輸出が困難になり、日本国内で処理を完結しなければならず早急な対応が求められています。
また、海洋汚染も深刻な問題です。マイクロプラスチックは海の生き物が誤って食べてしまうことなどにより、生態系に多大な悪影響を与えています。
プラスチックは自然界では何十年にもわたって分解されません。そのため適正に処理を行わないと、最終的に海に流れ着きます。
そして、長期間海に漂うあいだに小さく分解されマイクロプラスチックになります。
海洋汚染についてはこちらで詳しく述べています。
【海洋プラスチック問題とは】をご参照ください。
未来へ向けて
リサイクルはプラスチック問題に対して万能なわけではありません。
リサイクルにもまた、費用や労力、CO2排出量などの点でデメリットがあるからです。
LCAの視点で考えよう
そこでLCA(Life Cycle Assessment)という考え方が重要になってきます。
LCAとは資源調達、製造、加工、組立、流通、製品使用、廃棄の全工程における環境負荷を総合して評価しようという手法です。
例えばケミカルリサイクルでCO2排出量を削減できたとしても、プラスチック輸送の段階でそれ以上のCO2を排出していたら、リサイクルの意味がなくなってしまいます。
プラスチックと上手に付き合っていくためには、局所的な視点ではなく総合的にメリット・デメリットを判断し、バランスよく考えていくことが大切です。
SDGsの取り組み
2030年までに達成すべき開発目標として、現在、世界規模でSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という取り組みが実施されています。
SDGsは環境問題・社会問題を解決すべく17の目標をかかげています。
<SDGsの17の目標>
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任、つかう責任
- 気象変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
廃プラスチックの問題は、主にこの中の「7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、「12. つくる責任、つかう責任」「14. 海の豊かさを守ろう」に関連しています。
私たちを取り巻く環境をグローバルな視点でとらえ、現在を、安心して暮らせる未来へとつなげましょう。
新素材の開発
従来のプラスチックが抱える問題を解消すべく開発されたバイオプラスチックが注目を集めています。
バイオプラスチックには次の2種類があります。
- 生分解性プラスチック・・・プラスチックの特性を備えているが、自然界の微生物によりH2OとCO2に分解される素材 → 埋め立て地の不足を防ぐ
- バイオマスプラスチック・・・プラスチックの特性を備えた植物由来の素材 → 石油資源の枯渇を防ぐ
バイオマスプラスチックは、焼却時に発生したCO2をバイオマス原料の植物の光合成に使います。そのため、CO2を増やさずに再びバイオマスプラスチックを生み出せるという利点があります。
コストがかかるためまだそれほど普及していませんが、どちらも将来に期待できる素材です。
まとめ
プラスチックはいまや私たちの生活になくてはならない必需品です。しかし何も考えずに使用し、捨て続けていると、環境に様々な不都合を生じさせてしまいます。
プラスチックを生まれ変わらせて再利用するリサイクルは、そんなプラスチック問題に活路を開くカギとなります。ただし、費用や労力、CO2排出の面で、まだ万能というわけではありません。
リサイクルには大掛かりなシステムが必要ですが、「千里の道も一歩から」「塵も積もれば山となる」というように、私たち1人ひとりにも微力ながらできることがあります。
それはプラスチック消費者としての自覚を持ち、適切な分別を心掛けることです。
識別マークに従い分別し、できるだけ汚れていない状態で送り出すことが、プラスチックの生まれ変わりを応援することにつながります。
生活の上で欠かせないパートナーとしてプラスチックとWin-Winな関係を築きあげることが、住みよい未来への第一歩となるでしょう。
[1] 高分子化合物とは分子量10,000を超える化合物のこと。分子量とは炭素(C)を基準とした相対的な原子や分子の質量比のこと