私達が毎日お世話になっている靴は、生産あるいは廃棄の過程で、CO2排出や海洋汚染など様々な環境問題の原因になっています。
そこで近年は、国や大手シューズメーカーが環境への負荷を減らす取り組みとして、靴のリサイクルを進めています。
靴の廃棄の現状
靴は私達の生活になくてはならない必需品です。
しかし、「サイズが合わなくなった」「ボロボロになった」「デザインに飽きた」など様々な理由で廃棄されています。
令和2年4月の経済産業省製造産業局『履物産業を巡る最近の動向』に記載されていた『World Footwear Yearbook 2019』によると、日本で1年間に消費される靴は7億2400万足、世界全体では226億足にものぼるとされています。
これだけたくさんの靴が一年間に消費され、そのほとんどが廃棄処分されています。
靴を含む廃棄物全体の2019年のリサイクル率は約19.6%です。[1]
靴のリサイクル率についての統計はありませんが、さらに低いことはほぼ間違いありません。
様々な素材やパーツが組み合わさって作られるという靴の構造によって、分解して素材別に分別するコストがかかるためです。
そのため、回収された靴のほとんどが、焼却あるいは埋め立て処分されているのです。
靴がもたらす環境問題
靴は生産過程と処分過程の二つの段階で環境に悪影響を与えています。では環境に与える悪影響についてみていきましょう。
焼却時のCO2排出による地球温暖化加速
上述のように靴は、大部分が石油を原料とした素材から作られています。石油という化石燃料は炭素を含んでおり、燃やすことでCO2を排出します。
CO2は地球温暖化の主要因となっている温室効果ガスです。
埋め立てによる海洋汚染
日本では、靴を含めた可燃性の廃棄物のほとんどは焼却処分されています。
しかし、世界では埋め立て処分をしている国が多数存在しています。
石油から作られた合成樹脂は微生物によって分解されにくい性質があり、何十年もそのまま土中に残ります。
年月放置されている間に、分解されず残った石油由来の廃棄物が、河川を通じて海に流れ込み、海を汚しています。
このように合成樹脂が海を汚す問題については、ぜひこちらのコラム「海洋プラスチック問題とは」をご覧ください。
たった1足の生産や処分ではわずかなものですが、年間200億足を超える生産と処分を繰り返す中で、その環境負荷は計り知れないものとなっています。
国のリサイクル推進のための取り組み
拡大生産者責任(EPR)から作られた法律
世界各国が公害や廃棄物処理問題などで苦しむ中、2001年に経済協力開発機構(OECD)が提唱した『拡大生産者責任(EPR)』という考え方が、注目を集めるようになりました。
この拡大生産者責任という考え方は、生産者は製品に対し、設計、製造、使用段階のみならず、消費後の廃棄、リサイクル段階まで責任を負うというものです。
この考え方の一環として、フランスは2020年2月にサーキュラー・エコノミー(循環型経済)推進のための法律(循環経済法)を公布しました。
この法律は事業者が売れ残りの靴を廃棄処分することを禁止し、寄付あるいはリサイクルすることを義務づけるものです。[2]
また、日本でも拡大生産者責任の考え方の一環として、『容器包装リサイクル法』が制定されました。
この法律により靴購入時の靴箱、靴が型崩れしないようにするための紙、あるいはプラスチック製の詰め物がリサイクルの対象となりました。[3]
エコマーク制度
公益財団法人日本環境協会は、2008年12月1日に『エコマーク』制度を靴や履物にも適用させました。
エコマークとは、生産から廃棄までの過程で環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられたラベルのことです。
エコマークは、消費者自身が環境を意識した選択をしやすくすること、それにより、企業側に環境改善努力を促すことを目的としています。
このような環境ラベルはアメリカやEUでも同様の目的で、靴や履物にも適用されています。[4]
もっとも日本を含め世界各国においても、いまだ家電リサイクル法などのように、靴や履物だけを対象としたリサイクル法は存在していないようです。
大手シューズメーカーのサステナブル(持続可能)な取り組み
adidas(アディダス)の海洋ごみやきのこの根っこから作られたスニーカー
アディダスは、20年以上前からサステナビリティ(社会と地球環境全般の持続可能な発展を目指す考え方や取り組み)を経営理念の中心としています。
アディダスは2015年に環境保護団体『パーレイ』とパートナーシップを締結し、ニューヨークで開催された『Oceans Climate Life(海洋・気候・生命)』という国連イベントでサステナブルなシューズを披露しました。
世界初となったこのシューズのアッパーには、海の重大な汚染を引き起こしている海洋プラスチックや漁網からリサイクルされた糸や繊維が使用されています。
そのような海洋プラスチックから作られたパーレイ・オーシャン・プラスチック製品の生産数は、2020年には1500万足にも及んでいます。
さらに2021年に、定番モデル『スタン・スミス』の全商品のアッパーに『PRIME GREEN』という高機能リサイクル素材を採用しました。最新作の『Stan Smith Mylo(スタン・スミス・マイロ)』は、自然とのコラボレーションをコンセプトにかかげています。
このシューズは、キノコの菌糸体という根っこのような部分を使用した100%天然素材から作られています。
出典:adidas blog
アディダスは、2024年までに全てのシューズやアパレル用品にリサイクル再生ポリエステルを使用することを目標に掲げています。
リサイクル再生ポリエステルとは回収されたペットボトルなどを粉砕し、それらを糸や繊維として再生することで作られたポリエステルのことです。
asics(アシックス)のCO2排出に配慮したシューズ
スポーツメーカーのアシックスは、2004年にサステナビリティの専任部署を設置し、その理念を取り入れた事業戦略を展開しています。
靴関連では2018年にシューズに使用する天然皮革の88%を、レザーワーキンググループの格付けを取得したなめし革工場から調達しています。
レザーワーキンググループとは、レザーに関する品質や安全性、環境問題の啓蒙活動をおこなっている国際団体です。
また、アシックスはソール部分に木材、アッパー部分にペットボトルのリサイクル繊維を用いたスポーツシューズを開発しています。
このような取り組みでアシックスは、スポーツシューズ製造工程に関するCO2排出量を、1足あたり15.9%削減しました。
さらに2030年までにサプライチェーン(物を作る、売るといった一連の流れ)でのCO2排出量を製品あたり55%削減する目標をかかげています。[5]
様々なサステナブルシューズを開発し、環境問題を消費者に訴えるNIKE(ナイキ)
ナイキは、資源が少なく補給もできない火星での生活をイメージしたシューズ『Space Hippie(スペースヒッピー)』を発売しています。
スペースヒッピーは、スクラップや宇宙ごみを再利用して作られています。
出典:ナイキドットコム
ナイキはその他にも様々なサステナブルな商品を発売しています。
また、サイトやSNSを通し消費者に、地球にやさしい商品の購入を呼び掛けています。[6]
南米発のエコスニーカー『Cariuma(カリウマ)』
南米ブラジルのブランド『カリウマ』[7]は、『サステナブルなスニーカー』をコンセプトとしています。
出典:カリウマドットコム
カリウマのシューズの中には、アッパーがバンブーニットで作られているものがあります。バンブーニットとは、竹繊維と他の天然繊維を棍紡した糸で編んだニットのことです。
またサトウキビのアウトソール、リサイクル可能なコルクとヒマシオイルのインソールという天然素材で作られています。
消費者にとって最大のメリットは、洗濯機で丸ごと何度でも洗えることです。
これによって、汚れが原因で捨てられることが少なくなるので、サステナビリティに寄与します。
オランダでポイ捨てされたチューインガムから作るスニーカーが開発された
オランダのアムステルダムで開発されたのは、路上でへばりついていたチューインガムを集めて作られたスニーカーです。
その名は「Gumshoe(ガムシュー)」です。
ガムシューの靴底は、ポイ捨てされたチューインガムをプラスチック加工して作られています。
そしてその靴底には、半円状に運河が流れるアムステルダム市の地図や市の紋章『XXX』がデザインされています。
出典:ampmedia
私達ができるサステナブルな取り組み
上述のように行政は靴の生産者にリサイクルを促し、靴メーカーはリサイクルしやすい靴の製造などに取り組んでいます。しかしこのような努力は、私達消費者の環境を大切にするという意識があって成り立ちます。
すなわち、私達消費者がサステナブルな製品を選んで購入しなければ、靴メーカーもこのような取り組みをやめてしまうかもしれません。
サステナブルな製品を選ぶ一つの基準として、エコマークがついた製品を選ぶのも良いでしょう。
また、上記のようなサステナブルな製品作りに取り組んでいるメーカーを中心に、靴選びをすることも、リサイクルを後押しすることになるといえます。
さらに私達消費者にとっては、行政やメーカーのリサイクルへの取り組みを後押しすることと同時に、リユース(再利用)することも重要です。
そこで、以下にいくつか再利用の方法をご紹介します。
- 知り合いへの譲渡
成長の早い子供の靴は、比較的キレイな状態のうちにサイズが合わなくなり不要になることが多いので、知り合いへの譲渡は有効な再利用方法です。 - 発展途上国などへの寄付
ボロボロになった靴でも発展途上国では有効活用されます。
NPO法人 ワールドギフトといった団体を介して寄付することも有効な再利用方法です。 - フリマやメルカリ、ネットオークションへの出品
まだまだキレイで履ける靴でもデザインに飽きた靴などは、フリーマーケットで売れば、購入者に再利用してもらうことができます。 - リサイクルショップへの売却
リサイクルショップへ売却すれば、新たな持ち主により再利用されます。 - 新しい靴を買う際の下取り
ショップによっては、新しい靴の購入時に古い靴を下取りしてくれます。
例えば西武・そごうは、子供靴の下取りを実施し、発展途上国の子供達へ送る活動をしています。詳しくはこちらをご覧ください。
まとめ
以上、靴が環境におよぼす影響、リサイクルのための国やメーカーの取り組みをお伝えしていきました。
生活になくてはならない靴だからこそ、処分という最終段階のことも真剣に考えなければならないと思います。
コロナによるリモートワークの増加、ビジネススタイルやライフスタイルの変化により、革靴やパンプスの需要が減り、スニーカーの需要が増えています。
処分を考えている方は再利用の検討を、またスニーカーなどの購入時にはサステナブルな製品の購入を視野に入れて頂けたらと思います。
この記事が、不要になった靴をすぐにゴミとして捨てるのではなく、その靴にリサイクルやリユースの道はないのかを考えるきっかけとなりましたら幸いです。
[1] 環境省 一般廃棄物の排出と処理状況
https://www.env.go.jp/press/110813.html
[2] 環境省 フランスの政策概要
https://www.env.go.jp/content/000050475.pdf
[3] 日本容器包装リサイクル協会
https://www.jcpra.or.jp/tabid/108/index.php
[4] 環境省 海外における環境ラベル基準の改定動向
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/kokusai_platform/2018report/mat_03.pdf
[5] 経済産業省製造産業局生活製品課
『履物産業を巡る最近の動向』25ページhttps://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/seikatsuseihin/hikaku/downloadfiles/footwear2020.pdf
[6] ナイキドットコム
https://www.nike.com/jp/a/sustainable-eco-friendly-shoes
[7] カリウマドットコム
https://cariuma.com/pages/comfort-jpn