2018年に環境省によって立ち上げられたキャンペーン「プラスチック・スマート」。
個人、政官民が一体となって世界的な海洋プラスチック問題を解決しようという運動です。
ここでは、このキャンペーンの内容と、個人や各団体の具体的な取り組みについて説明します。
「プラスチック・スマート」とは?
「プラスチック・スマート -for Sustainable Ocean-」とは、環境省が世界的な海洋プラスチック問題の解決に向けて、2018年10月に立ち上げたキャンペーンです。
「スマート(smart)」とは「賢い」という意味です。
企業だけでなく、個人消費者、自治体、NGOなどが連携し「プラスチックとの賢い付き合い方」の取り組みを国内外に発信しています。
プラスチック・スマートの趣旨~海洋プラスチック問題の解決
プラスチック・スマートが目指しているのは、世界的な海洋プラスチック問題の解決です。
そこで、まずは海洋プラスチック問題とはどれだけ重要なのかについて説明します。
海洋プラスチック問題の現状
プラスチックは手軽で、耐久性に富み、加工しやすく、安く生産できるため、わたしたちの生活のあらゆる場面で使われています。
しかし、使用されたプラスチックは多くの場合、きちんと処理されず、使い捨てにされてしまいます。
自然の中で生み出された物質は、いつか微生物の力などによって分解されて消滅します。
これに対して、廃棄されたプラスチックは分解されません。
紫外線によって劣化し、小さくなって見えなくなるとしても、土に還ることはありません。
そのため、プラスチックの多くは風や水の流れによって陸地から河川に運ばれ、最終的には海に行き着きます。
つまり、人間が使ってきちんと処理しなかったプラスチックは、海にどんどんたまっていくことになります。これが「海洋プラスチック問題」です。
すでに海洋には1億5,000万トンのプラスチックごみが存在しており、そこに毎年800万トン(ジェット機5万機に相当)が流れ込んでいるといわれています。
プラスチックごみは、海の生態系に影響を及ぼしています。
例えば、多くの生物がプラスチックの漁網に絡まったり、ポリ袋を餌と間違えて摂取したりしてしまいます。プラスチックごみの摂取率はウミガメで52%、海鳥で90%に上ると推定されています。
また、紫外線によって目に見えないくらいまで小さく砕かれたプラスチックは「マイクロプラスチック」と呼ばれますが、大きなクジラから小さなプランクトンにまで影響を与えています。
最終的には魚介類を食べる人間の体内に再び戻ってくるのですが、人間にどのような影響を与えるかはまだ詳しく解明されていません。
「プラスチック・スマート」の取り組みが必要な理由
上記の現状を踏まえて、「プラスチック・スマート」つまり、プラスチックとの賢い使い方に取り組むのはなぜか考えてみましょう。
それはプラスチックごみやマイクロプラスチックはそもそもどこから来ているのかに関係しています。
海洋プラスチックの8割以上は陸上で使用され捨てられたものです。
その中でもっとも多くの割合を占めるのが、容器包装用などの使い捨てが想定されるプラスチックです。
下図に示されているとおり、世界で生産されるプラスチックの36%、国内で生産されるプラスチックの61.1%が使い捨てプラスチックであることが分かります。
つまり、使い捨てプラスチックとどう向き合うかが、「プラスチック・スマート」において重要であるということです。
日本は1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量が世界第2位という、使い捨ての習慣が強く根付いている国です。
この習慣を少しでも変えていくために、個人がコンビニのレジ袋やペットボトルの使用について減らすことを意識しなければなりません。マイバックやマイカップなどを使うことで、プラスチックの使用量、廃棄量を減らすことが求められています。
また、企業や自治体はプラスチックを使い捨てにさせない、つまりプラスチックをリユース(再利用)したり、リサイクル(再生産)したりする仕組みの構築に携わる責任があります。
日本ではプラスチックのリサイクル率が2005年には58%だったのが、2019年には85%まで向上しました。しかし、2019年の内訳をみると、マテリアルリサイクルが22%、ケミカルリサイクルが3%、サーマルリサイクルが60%でした。
割合として一番多いサーマルリサイクルとは、プラスチックを焼却処理し、その時に発生する熱をエネルギーとして利用することです。
しかし、この手法だと二酸化炭素が排出されるため、地球温暖化防止の観点からはよい解決策とはいえません。
実際、ヨーロッパではサーマルリサイクルはリサイクルとみなされていません。
そのため、ヨーロッパの基準に基づくと日本のリサイクル率は19.6%(ノルウェーは約45%、スペインは約40%)にとどまります。
プラスチック・スマートの取り組み
深刻化する海洋プラスチック問題に対する意識付けのため、プラスチック・スマートではキャンペーンのロゴマークが決められました。
キャンペーンに賛同するすべての個人・自治体・企業・団体はこのロゴマークをポスターやチラシ、パンフレット、広告、名刺やHPなどに無償で使用できます。
個人ではマイバックやマイカップなどを活用し、使い捨てプラスチックの使用を控えるなどの取り組みをした場合、そのアイディアや写真などをSNS(Instagram、facebook、Twitter等)で
「#プラスチックスマート」
とタグをつけて投稿します。
企業はロゴマークを使ったPRだけでなく、自社の取り組み※をキャンペーンサイト(http://plastics-smart.env.go.jp/)にアクセスし、登録します。
※2022年9月12日時点で、2971件のアクションが登録。
プラスチックと賢く付き合うアクション
キャンペーンサイトに掲載されている資料「ゴミ拾いから始める海洋プラスチックごみ問題の解決:一般の方、地方自治体向け」によると、「プラスチックと賢く付き合うアクション」として4つのアクションが提唱されています。
- 不必要な使用を減らす
- 使用後はできるだけリサイクル
- 分解されるものを使う
- 処理から漏れたら回収
4つのアクションに基づいて個人ができることについて説明します。
不必要な使用を減らす
プラスチックごみの解決には
「リデュース(Reduce)=ごみを減らす」
「リユース(Reuse)=再利用」
「リサイクル(Recycle)=再生産」
のいわゆる3Rが必要だといわれていますが、個人でも不必要なプラスチックの使用を減らすことで、「リデュース」に貢献できます。
2020年7月にプラスチック製レジ袋が有料化されることで、マイバックを持ち歩く人が多くなりましたが、マイボトルやマイストローも使ってみてはいかがでしょうか。
レジ袋だけでなく、プラスチック製のカトラリーやコップのフタなども、必要ないなら店頭で「受け取らない」意思表示をすることで、不必要な使用を減らすことができます。
使用後はできるだけリサイクル
リサイクルできるように使用したプラスチックは所定の場所・時間に分別して出すようにします。
また、使用したプラスチックをポイ捨て、屋外に放置しないようにします。
これらのプラスチックごみは雨や風によって川に流れ、川から海へ行き着き、漂流ごみや漂着ごみになるためです。
2022年4月から施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」では、製造販売業者は「廃棄物処理法」の許可がなくても、自分たちで使用済みプラスチックを回収して再資源化を行なえるようになりました。
そのため今後、使用済みのプラスチック回収拠点は増えていくことが期待されます。
分解されるプラスチックを使う
微生物の力で自然に分解される性質をもつプラスチックを「生分解性プラスチック」といいます。
ただ、注意すべきは現在使っているプラスチックすべてを生分解性プラスチックに移行すればよいというわけではないということです。
出典:生分解性プラスチックの課題と将来展望(三菱総合研究所)
上図に示されている通り、生分解性プラスチックに移行すべきは非耐久財です。
特に釣り糸や漁網などは、海洋生物に大きな影響を与えているにもかかわらず、回収が難しいという問題があります。
これらを生分解性プラスチックに置き換えることは、海洋プラスチック問題を解決する一つの解決策になりえます。
他方、PCや家電製品などに使用されているプラスチックに生分解性を使用するメリットはあまりないため、従来のプラスチック製品を使用しながら、回収を徹底すべきであるといえます。
ちなみに最近レジ袋の原料などでよく見かける「バイオマスプラスチック」は再生可能資源であるバイオマスを使用している点で環境に配慮した素材です。
バイオマスとは動植物から作られた資源のことで、プラスチックの原料としてはとうもろこしやサトウキビなどが使われています。
バイオマスは動植物由来ではあるものの、必ずしも生分解性ではない、という点に注意が必要です(バイオマス由来であり、かつ生分解性のものもあります)。
処理から漏れたら回収
自分の手を離れるプラスチックごみをリサイクルできるようにするだけでなく、ゴミ拾いもリサイクルにつながります。
河川敷や海岸の清掃活動に参加できたらよいですが、仮にそれができないとしても自宅付近を散歩している時などに気づいたらゴミ拾いする習慣をつけるのもよいでしょう。
まとめ~プラスチックと賢く付き合おう
プラスチック・スマートが発信しているメッセージは、「プラスチックの使用をゼロにしよう」とか「プラスチックの使用は良くない」ということではありません。
どんなに便利な道具でも、賢く使うことが大切だということです。
使い手である私たちが道具を賢く使いこなすためには、正しい価値観を持つことが必要です。
プラスチックも便利だからといって、地球を破壊に追い込んだり、マイクロプラスチックが人類の生命を脅かしたりするようになっても使い続けるのは愚の骨頂でしょう。
実際にこのままアクションを起こさなければ、2050年には海のプラスチックごみは魚の総重量を超えるともいわれています。
そうならないように、わたしたちひとり一人にプラスチックとの賢い付き合い方が求められています。