技能実習生制度とプラスチックリサイクルビジネス

外国人技能実習生

プラスチックリサイクルビジネスにおいて、技能実習生は労働力として大きな割合を占めています。

この技能実習生制度が大きな曲がり角に差し掛かってきています。

リサイクルビジネスと技能実習生制度についてまとめました。

<目次>

リサイクル業界と技能実習生制度の現状

技能実習生制度・特定技能制度とは

制度と運用が実態乖離

制度の見直し機運

長期的には海外人材確保は困難な方向へ

リサイクル業界が根本的に目指す方向性とは

リサイクル業界と技能実習生制度の現状

世の中には様々な3Kと呼ばれる労働環境がありますが、プラスチックリサイクルの加工の現場もその一つとして上げられる産業です。

日本人の定着率は低く、勤務初日に退職などという話はザラです。原料を加工する工場の利幅は小幅に止まり、作業者の給与水準も決して高いとは言えません。10人以下の家族経営的な工場の場合ですと社長はいい車に乗っていても、社長以外の従業員はみんな軽自動車という状態が一般的です。

若い労働力を惹きつける魅力には乏しいと言わざるを得ません。

なので、海外からの労働力にかなりの部分頼ってきたという経緯があります。1993年に導入された技能実習生制度はリサイクル業者にも多く利用されてきました。

正確な統計はないのですが、著者が乱暴に推定するとリサイクル業界の50%は外国人労働者ではないでしょうか。50%の中には、日本国籍を取得した外国人なども含めての推定です。

いずれにしても、労働力の大きな割合を海外人材に頼ってきたのがリサイクル業界です。

技能実習生制度・特定技能制度とは

そもそも技能実習や特定技能についてご存じない方のために、簡単にご説明します。

技能実習制度

1993年から制度化された制度です。

日本の産業界が有する技能、技術または知識を開発途上の国々へ移転することにより、その国の経済発展を担う人づくりを行う制度です。

目的は、技術や知識を教える(移転)ことです。(労働力の確保が目的ではない)

この部分については、技能実習法の中で「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(法第3条第2項)と明記されています。

特定技能制度

2019年4月から受け入れ開始した制度です。国内で人材を確保することが難しい業界が、一定の専門性・技能をもった外国人を海外から受け入れることができる制度です。

目的は労働力の確保になります。

 

2022年時点では技能実習制度の利用人数のほうが多く、2019年からスタートした特定技能制度の利用はまだ少数である状態です。

制度(建前)と実態が乖離

現時点で多くのリサイクル企業が利用している技能実習制度ですが、いくつか問題点があります。

実はそもそも、リサイクル業者は狭義(いや、本当は広義でも)の解釈では技能実習制度を利用できる業界には認定されていません。

プラスチック分野で認定されているのは、「押出加工」「射出成型」「インフレーション成型」の3業種のみです。ここに「ペレットの加工」や「リサイクル加工」などは含まれないのです。

つまり、現時点でリサイクル業界がこの制度を利用するのはグレーのまま利用しているという状態になってしまっています。今、リサイクル業界は正々堂々とした方法ではなく、様々な抜け道となっている手段でコソコソと「何かを隠しながら」利用している状態なのです。

次に、建前と実態の著しい乖離があります。

建前は、日本の技術を発展途上国に移転するということになっています。

しかし、そもそもリサイクルのペレット加工は発展途上国でむしろ盛んに行われていて、むしろあちらの方が経験値が高い場合さえあります。

「移転すべき技術」などはっきり言えばないのです。すでに、建前でさえ(リサイクル業界に限れば)成立していないのです。

次に、実態です。

実態は明らかに「不足している労働力の確保」が目的です。それ以外はないと言えるでしょう。

上記に記したように、技能実習法の中で「労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」という部分と大きく乖離(むしろ真反対)してしまっています。

制度の見直し機運

日本の産業界(リサイクル業界のみならず)が大変な人手不足に陥っているにもかかわらず、上記にあるような建前と実態の乖離のために、多大な無駄な労力が使われていることを著者は間近で見てきた。

本当は労働力不足の需給調整のための申請だと知っていながら、建前を崩そうとしない役所側。

実態とまったく違う建前を考え、偽りの書類を頭を捻って作成し、本音(労働力が欲しい)を一切出さないように役所と交渉する産業界側。

そのお互いの溝が大きいまま無駄な討議と無駄なやり取りが永遠に続いていきます。

貴重な時間を日本の国力向上のためでなく、建前の保持のためだけに浪費されているのは本当に無駄なことです。

しかし、ようやくこの果てしない無駄な状況を改善する機運もでてきたようです。

「1993年に導入した技能実習制度は本来、外国人への日本の技術の供与や教育が目的だった。しかし実際は多くの企業が労働力確保のために使っている」

「目的が建前になった面が大きくないか。日本として受け入れる際しっかりと処遇する制度へ改めなくてはならない」

11月24日日経新聞 古川禎久・自民党司法制度会長インタビューより

今更か、、、とも思いますが、やらないよりどれだけいいかわかりません。

更に、こう続きます。

「2019年に始めた特定技能制度は日本として初めて正面から外国人労働者の受け入れを認めたといえる。2つの制度を一本化し、技能実習は廃止することが選択肢になる」

11月24日 日経新聞 同上

そしていよいよ、外国人を「労働力」として受け入れる改定の検討に入ったようです。

政府は22日、外国人受け入れ制度の改定を検討する有識者会議を設置すると決めた。技能実習と特定技能の両制度について外国人労働力の確保などの観点で議論する。

11月22日日経産業新聞より

ようやく建前と実態が合う状態に近づく方向に向かうことが期待できそうです。

産業界では、「さあ、これで外国から人員をたくさん集めて業容拡大だ!」と鼻息が荒くなった経営者もいるかもしれません。

しかし、長期的に見た状況は簡単ではなさそうです。

長期的には海外人材確保は困難な方向へ

いつかはこういう時代がくるのではと思っていましたが、以外に早く到来するようです。

日本経済研究センターは日本に出稼ぎに来る外国人労働者の未来の動向を試算した。ベトナム、中国、インドネシアなど5カ国の工場労働者の現地給与と、日本の技能実習生の賃金を2035年まで推計した。賃金差がどれくらい縮まるかを試算したところ、32年までに現地給与が日本の50%超に達し、来日するメリットが薄れる可能性があることが分かった。

11月29日日経産業新聞より

2032年には東南アジアから日本にわざわざ来て働くメリットが薄れてくるようです。

となると、技能実習生制度が改定され、「労働力確保のため」になっても、今度は労働者側から働く国として日本が選ばれなくなる可能性が出てきます。

ただでさえ、2022年12月時点で円相場は138円と年初に比べても大幅に円安に振れています。

これはつまるところ、日本で稼ぎに来た外国人労働者の給与も相当目減りしているということです。

成長著しいアジア地域の追い上げを受け、さらに円安で労働対価を円でもらうメリットが30-50%も目減りしているとなると、外国人労働者の安定雇用はリスクもはらんでいると考える必要がありそうです。

「日本にくりゃアイツら稼げるんだよ」などと古い固定観念を持ち続けている中小企業の経営者がいたら、すぐに考えを改めたほうがよいかもしれません。

日本が働く場所として魅力を失うのは時間の問題です。

リサイクル業界が目指すべき方向性とは

国内で賄えない労働力を海外の労働者に頼ってきたリサイクル業界ですが、近い将来には徐々に外国人労働者さえも確保が難しくなると思われます。

日本人の確保にも苦労する経営者が多いなか、外国人まで雇用できなくなると日本のリサイクル業界の担い手を確保することが難しくなります。

著者が20年間このリサイクル業界の経営者や労働環境を観察してきました。

従業員の確保に苦しむ経営者、定着率が悪い経営者に共通するいくつかのポイントがあります。

作業者の給与を安くする方法ばかり考えている

作業者の悪口や不平不満ばかり話題にする

リサイクルの仕事はあくまでお金を稼ぐ手段でしかない

別に地球環境が将来どうなるかとか心配に思ったこともない

だいたい、上記のような経営者が半数以上いるように思います。

簡単に言えば、「社員を幸せにしよう」「地球環境を改善しよう」というような理念が欠けていることが共通しています。

そのような工場は大抵、従業員の入れ替えが激しく、若手が入っても定着しません。

このような工場の雰囲気は殺伐としていることが多いです。(そしてなぜか掃除も行き届いていない)

大抵、外国人労働者に頼っているケースがほとんどです。

外国人は以前は3年我慢すれば帰国できるので、だまって働きます。しかし日本人はそうはいきません。社員は経営者をよく見ています。「こいつ、ダメだな。変わらないな。」と判断したときに辞めていきます。

そのときに、辞める社員は黙って辞めるので、経営者はいつまで経っても気付きません。

将来のリサイクル産業を考えた時に、このような経営者に自己成長していただく必要があるのではないかと思っています。

一旦、自分のことは棚に上げて、以下を提言したいと思います。

理念を持つべき

「人がいない人がいない」と言う経営者は、従業員側から言えば「一緒に働きたいと思えない経営者」です。「ついていきたくない経営者」とも言えます。

人は大きな夢や理念に触れて、「自分も参加したい」と感じるものだと思っています。

自社の仕事を単なる「作業」、社員を「作業者」としか捉えていない経営者の元には人は集まりません。

まずは、「なぜこの仕事をしているのか」をよく考え、経営者自身が理念を固めるべきでしょう。

その理念がしっかりしたものであれば、そこを土台にした経営判断は今までとまったく異なるものになってくるのではないでしょうか。

従業員の幸せを真剣に考えるべき

自分一人が外車に乗って、ゴルフして、接待交際費で飲み歩いているのであれば、姿勢を改めるべきでしょう。

本当に従業員にとって働き甲斐ある職場にするために、彼らの所得を上げるためにどうすればよいかを「真剣に」考え、実現していくことが必要でしょう。

リサイクル工場での採用は厳しいものです。

しかしながら、日本人の採用がまったく進まない経営者がいる一方で、若手社員を次から次へと採用し、しかもその社員を長年定着させている経営者がいることも見てきています。

定着率の良い工場には必ずマネジメントが存在しています。

定着率が悪いことを前提に、自ら考えて「経営」を行っている経営者は、社員をきちんと確保できているのです。

「そんなことわかっているんだよ、じゃあ、どうすりゃいいんだよ」という声が聞こえてきそうですが、それを考え抜き、わずかなチャンスにチャレンジして実現させるのが経営者の「経営」でしょう。

経営者は「経営」しなければならないと思います。

その自分の仕事を「どうすればいいのか」と人に聞いている時点で経営者としての成長は厳しいかもしれません。

リサイクルの仕事もみんながやりたがって、群がる仕事をやっているだけでは利益率の向上は図れないでしょう。自社の技術力や知見を高めて、他社にできない仕事ができるように挑戦していくことが必要でしょう。

そしてその高めた技術は現在リサイクルできていないプラスチックスクラップをリサイクルする方向に働くものであると期待しています。

そうなって初めて、従業員に十分な所得を配分することができるのです。

人手に頼らず、自動化を進めるべき

リサイクルの現場は厳しい環境です。

一方で、労働力を確保することはどんどん困難になります。

少しでも楽に、人数を少なく、効率よく工程を進めることができるようにしていくしかありません。

そこで少人数で利益率を高め、利益分配を従業員に対してできるようにして働き甲斐のある職場、やりがいのある職場にしていくことが大事です。

単純作業をいかに自動化するか、ここは今後ますます重要になってきます。

投入作業:定量供給機

仕分け作業:光学選別機、AI選別機

フィルター交換の自動化:レーザーフィルター

完成ペレットの計量:自動計量・自動充填システム

などなど。

より少ない人員でより厚い利益を得られるように、自動化は必須の投資となるでしょう。

厚く確保できた利益のなかから従業員に多く配分できるようになっていくことが、労働力確保の観点からも重要です。

 

以上、自分のことは棚に上げて言いたいことを言ってしまいましたが、地球環境の改善のためにリサイクル工場は今後重要な役割を果たしていかなければなりません。

自分のことしか考えない経営者には早々に退出いただき、理念をもった経営者が協力できる業界になることを願っているためなので、どうかご容赦いただきたいと思います。

村井健児

株式会社ファー・イースト・ネットワーク 代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒業、三菱銀行(現三菱UFJ)にて法人融資、株式会社宣伝会議にて環境雑誌に関わる業務を経て、2002年からプラスチックリサイクル業界で経験を積む。
2006年株式会社ファー・イースト・ネットワーク創業。プラスチックスクラップ売買、再生樹脂ペレット売買、リサイクル用機械・プラントの輸入販売を行う。

タイトルとURLをコピーしました