言い方を選ばなければ、著者は日本の大企業の環境対策が気に入りません。
いつも周り(消費者、行政、金融機関、メディア、株主、同業者など)をチラチラ見ながら自社の環境対策を周りと大きく乖離しない程度に最小限で抑えようという意図が透けてくるものばかりであることが理由です。
その根性が嫌いです。
柔道の試合では、攻撃せずに消極的な試合運びをしていると指導を受けてしまいます。しかし、その警告を受けないために、「攻めてるフリ」をする掛け逃げがあります。「相手を投げる意思がない技をしかけること」です。
日本の大手企業の環境対策は、柔道の「掛け逃げ」に似ています。
彼らに自覚はないかもしれませんんが、「指導を受けないことが目的」になっています。
消費者の目が厳しいから環境対策する
行政が立法したから対策する 金融機関の評価に環境対策が盛り込まれるので対策する メディアに叩かれないように対策するフリをする 株主や機関投資家に環境に後ろ向きと見られないために対策する 同業者がやっているから対策する |
全社とはいいませんが、8割方はこんなところでしょう。
著者は、プラスチックリサイクルの大企業の施策のコンサルティングを月に3-4社から受けていますが、本腰を入れているかいないかはすぐにわかります。
なんとかコストをかけずにプラスチックリサイクルの施策を実施しようとするのですが、結局ある程度のコストがかかることがわかると、スーッとフェイドアウトしていきます。
「いつもキョロキョロ」、「攻めてるフリして攻める気なし」そんな挙動が日本の大企業の環境対策に当てはまりそうです。
日本の大手商社の石炭火力発電についての意思決定を見ると特にキョロキョロ具合が酷いです。
3年連続で化石賞の受賞の栄誉(?)に浴したのもそんな日本の大手商社と経済産業省の姿勢によるものでしょう。しかし、3年連続で化石賞を受賞しようが、それでも平気だったのは何の損害も罰則もないからです。
なので、こんな批判を浴びながらも、何年の間も事業計画を見直す動きを見せていませんでした。
著者はエネルギー事情などの実情に明るいわけではありません。情報は新聞やネットなどのメディアから得ている情報のみです。
それぞれに事情を詳しく聞けばなんらかのそれらしい理由はテーブルの上に次々と出してくると思われます。
日本の石炭火力発電の効率はいいとか、ナントカ、、、
しかし、著者のような活動をしている立場のものからすると、本当に薄っぺらいという印象しかありません。
大手商社の経営者幹部の環境リテラシーの低さに驚くばかりです。
もう少し言えば、日本の大企業の環境リテラシーが低いと言わざるを得ません。
しかし、そもそもそれを許している、あるいは声を上げない我々消費者あるいは日本国民の環境リテラシーが低いということなのかもしれません。
さて、そんな環境リテラシーが低い大手商社が、血相を変えて態度を急変させなければならない事態が起きるようになりました。
環境意識の高い欧米などを中心に以下のような動きが急速に高まり始めました。
機関投資家(年金基金、公的基金など)の石炭火力からの投資撤退
銀行の新規融資停止、既存融資の撤退 保険会社の石炭火力への投資停止、保険引き受け停止 |
融資停止や保険引き受けの停止は、大手商社にとっても事業継続に関わる重大なインパクトとなりました。
もう掛け逃げは許されない状況に追い込まれました。
次なる掛け逃げは、機関投資家などからの「指導」となり、大きなリスクをはらむことが明確になりました。リスクとは、「企業価値の大きな低下」です。
企業価値の低下(=株価の低下)は株主訴訟にも発展しかねません。
株価への影響まで懸念される事態となり、ついにキョロキョロ君達は相変わらずキョロキョロしながら一気に(仲良く一緒に)脱石炭火力に傾いていきます。
大手商社は次々と石炭火力プロジェクトから撤退を表明していきました。
著者としては、撤退に「かじを切り始めた」のはいいとして、「かじの切るタイミング」が気に入らないです。
環境団体からの提言には耳も貸さず「知らぬ存ぜぬ」でした。しかし、投資マネーの圧力がかかり始めたら全社が右へ倣えで 「かじを切った」のです。
そこには地球環境への憂慮や未来の子供たちへの配慮もなく、自社の株価や金融市場での評価だけが判断基準だったのでは ないでしょうか。
日本を代表する大手商社の経営陣の意思決定基準が透けて見えてしまい、まったくがっかりな有様です。それでもどうにか以前よりは事業からは距離を置くポジションに移動したように見えております。
しかし、「まあ、石炭火力から撤退はしたのだからこれでよしとするか!」
というわけにはいかないようです。
結局、その権益や事業を第三者に売却しているわけです。その第三者は事業を継続していくのです。
石炭から発生する二酸化炭素が減るわけではなく、「日本の大手商社が関わらなくなった」というだけのことなのです。
地球全体から見たら何も変わっていないと言えます。
さて、そん中で2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー危機が起こっています。
原油をはじめとして天然ガスや石炭などのエネルギー価格が急激に上昇しました。
石炭の価値が上がり、大きな人口を抱える中国やインドばかりかイギリスが石炭火力のプロジェクトを復活させる発表をしているようです。他のヨーロッパの国々もエネルギー確保のために石炭を高値で購入しているとのことです。
さて、またキョロキョロ君達は、キョロキョロし始めているのでしょうか。
著者はプラスチックのリサイクル事業に取り組んでいるものの、二酸化炭素排出量ということで言えば、プラスチックの二酸化炭素排出量は微々たるものです。
温室効果ガスのひとつである二酸化炭素削減の本丸は輸送とエネルギーなのです。
この重要なエネルギー事業を担っている日本の大手商社の経営者は、「仕事ができる」「過去の実績」なども重要でしょうが、未来への真剣な配慮ができる人物を経営者としていただきたいと強く願うばかりです。