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スクラップ、再生樹脂ペレット、リサイクル機械についての課題を解決するプロフェッショナルです

2024環境展・地球温暖化防止展 5/22~24 東京ビッグサイトに出展します

増え続ける海洋ごみ マイクロプラスチックを放置できない3つの理由

クジラ4万頭分のプラスチックが毎年海へ

爽やかに風を切って洋上を駆けるクルーザー。でも海面をよく見ると、レジ袋がいくつも浮かんでいます。
船はわずかに舵を切り、スクリューが袋を巻き込まないように進んで行きます。もし絡みついたら、エンジントラブルで立ち往生してしまうこともあるからです。
便利なレジ袋も、ポイ捨てされると厄介者になるのは陸でも海でも同じ。そして海洋ごみは、レジ袋のほかにも多くの種類があります。

ペットボトル、洗剤容器、漁網、ビニールサンダル。
建築資材、使い捨てライター、食品パック、ロープ。
浮標(ブイ)、ポリバケツ、釣り糸、ボトルキャップ。

どれも沖に浮いて漂ったり、海岸に流れ着いたりするプラスチックごみです。
以前、筆者が漂着物の取材で玄界灘を訪れたときも、困ったことに波打ち際で大集結していました。
自然環境では分解されないため、こうしたプラスチックごみが大きな地球環境問題となっていることはご承知のとおりです。

ウミガメが不織布マスクを誤飲したり、海鳥の足にテグスが絡まって命を落としたりするのは氷山の一角。

海に捨てられたプラスチックごみは微細な粒子に砕け、海流に乗って漂い続けます。ごみだけでなく、衣類を洗濯したあとの排水にもプラスチックは混ざっています。
こうした細かな粒子となったプラスチック、つまりマイクロプラスチックをふんだんに含む海水が、「プラスチックスープの海」とも呼ばれているのもご存知でしょう。大量消費社会で生きていれば、誰もが身につまされるようなネーミングです。
しかもこの呼び方は、誇張でも何でもありません。海には毎年800万トン、シロナガスクジラ4万頭分のプラスチックごみが捨てられているからです。2050年までには、海中のプラスチックが魚と同じ重量になるという試算もあります。

こうなるとクルーザーの立ち往生どころではなく、ナノレベルに砕けた人工物のおかげで、地球の生態系が立ち往生しかねません。

有害化学物質の乗り物になるマイクロプラスチック

そもそもマイクロプラスチックには、レジンペレットのようにプラスチック製品の原料として初めから細かく作られているもの(1次マイクロプラスチック)と、プラスチック製品が捨てられて徐々に細かく砕けたもの(2次マイクロプラスチック)があります。
どちらもプランクトン同様、魚や貝の口から容易に取り込まれる大きさ。植物プランクトンをピラミッドの底辺とする食物連鎖のプロセスで、マイクロプラスチックは次々と高次消費者の体に入り、最終的にはピラミッドの頂点にあたる人間に摂取されます。

魚と同じ重量のプラスチックが海に捨てられるということは、その分だけ海洋生物の生育環境は確実に狭められるということです。
また栄養物ではないマイクロプラスチックが体に入ると、やせて成長できなくなったり、運動能力や繁殖率が落ちてしまうことが魚では知られています。マグロやサーモンの小型化に反比例して、私たちが毎日知らず知らずに食べるマイクロプラスチックは増えていることになります。

では人体にはどんな影響があるのでしょう。
マイクロプラスチックは、体内に蓄積されず排出されていくものなので、重金属(水銀、鉛、カドミウム、ヒ素など)のような生物濃縮はありません。
しかし栄養物でないものが体に入れば、やはり魚の場合と同じく、それを消化したり、排出したりするエネルギーはムダになり、人体にも余分な負担が生じます。これは「粒子毒性」と呼ばれています。ムダなエネルギーを使わせる粒子が、結果的に生命活動を阻害する危険をほのめかした用語です。

次に、マイクロプラスチックには有害化学物質の分子が付着しやすいことが知られています。
たとえば農薬のDDTが分解してできるDDE(ジクロロジフェニルクロロエチレン)や、工業用に使われる油状の化学物質PCB(ポリ塩化ビフェニル)など。これらはかつてもいまも公害病を発生させている有害物質です。このような物質を付着させ、いわば環境汚染物質の乗り物にもなっているのがマイクロプラスチックです。

さらにそうした化学物質の中には、内分泌かく乱物質もあります。これは生物の体内で、ホルモンと分子構造のよく似た化学物質が本来のホルモンの働きを阻害したり、失わせたりするというものです。
プラスチックには、劣化を防ぐためにこうした作用を引き起こす化学物質が使われていることが多く、またプラスチック自体にも、この内分泌かく乱物質となるものが指摘されています。
ただしこの問題はまだわかっていないことも多く、環境省が一度発表した67種類の内分泌かく乱物質リストをのちに取り下げたことなども有名な話です。

スロビックという心理学者によれば、世の中に新しく発生するさまざまな問題は、「未知数因子」が大きければ大きいほど「恐ろしさ因子」も強まり、高いリスクとして認識されます。そしてこの未知数の中には、これまで社会が経験していないことに加えて、原因が特定できないことも含まれます。

かつて重金属から公害病が初めて発症したとき、水中のメチル水銀やカドミウムの含有量を検出する技術は、まだ存在していませんでした。
マイクロプラスチックも、東京湾の海水から多量に検出されて本格的な研究が行われるようになったのは、ここ10年ほどのことです。
その意味でも、どんな化学物質が人体にどんな影響を与えるかは、まだまだ未知数といえます。むろん風評は禁物ですが、このリスクを過小評価したり、未解明だからと言って予防措置を取らずにいると、ますます社会的リスクを高めることになります。

対策のポイントは回収技術と排出抑制

量がハンパではないことと、生物への有害影響をもたらすこと。マイクロプラスチックを見過ごせない理由の2つまでは見てきました。

そして3つ目は、回収技術が確立されていないことです。ふつうのプラスチックごみでも、すべてを引き上げるとなれば地球規模でできるものではありません。ましてナノレベルの粒子となって海水をたゆたうマイクロプラスチックとなると、回収には新しい技術が必要になります。

それには大きく分けて、化学的な方法と、生物を使った方法が考えられています。

化学的な方法のひとつに、電荷的に中性な粒子をもつ非極性の物質を使って、同じく非極性のマイクロプラスチックを吸着させるというものがあります。

生物学的な方法としては、プラスチックを体の表面に吸着させる藻類を用いるものがあります。これを海底に繁殖させたいわゆる「海藻カーテン」は、海水だけでなく砂礫に混ざっているマイクロプラスチックも取り除ける可能性があります。回収したマイクロプラスチックは、熱分解することによってエネルギーに再生することもできます。

そして回収の一方で、捨てられるプラスチックごみを減らす取り組みももちろん不可欠です。資源循環技術でプラスチックをより再生可能なものにすることも大切ですが、サプライチェーンをもっとさかのぼり、プラスチックの使用そのものを減らすリデュースは何より大切です。
ただ、食品パックをプラスチックでなく紙などで代用するにしても、食品包装用の紙の多くは従来、水分を浸透させないようにビニールコーティングされていました。
またペットボトルの代わりにマイボトルを持参して飲み物を買うといった民間の取り組みも、まだ世界のごく一部の環境先進都市に見られるだけです。

「環境問題にシルバー・バレット(特効薬)はない」という言葉があるように、対策にはたったひとつの万能的処置を期待せず、産・官・学・民がそれぞれのできることでネットワークを構成し、多角的・包括的に取り組んでいくことが必要となります。

門脇仁

門脇 仁

1961 年生まれ。慶應義塾大学文学部文学科仏文科卒業。フランス国立パリ第8大学応用人間生態学研究科上級研究課程修了。出版社、シンクタンクなどを経て1998 年よりフリー。現在、環境ライター・翻訳家。生態学史研究者。東京理科大学理学部第 1 部、法政大学人間環境学部などで非常勤講師を兼務。

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