レジ袋による環境問題はレジ袋有料化でなくなっていない

レジ袋

2020年7月からプラスチック製レジ袋の有料化が義務化されました。
その理由は、レジ袋によって引き起こされる環境問題を改善するためです。

しかし、具体的にレジ袋が引き起こす環境問題について詳しく知られてはいません。

ここでは、レジ袋が引き起こしている具体的な環境問題。レジ袋の有料化によってどのくらい環境問題が改善できたのか。更に、レジ袋が自然界で分解されないという説が正しいのか。
最後にレジ袋の有料化による効果を無駄にしないために、気をつけたいことについてこの記事では解説します。

レジ袋の不適切な破棄による問題

レジ袋が引き起こす環境問題の大きな原因の一つに、不適切な破棄があります。
陸上はもちろんのこと海中であっても、レジ袋はゴミとして散乱して悪影響を及ぼしています。

ここでは、以下の4つに分けて、レジ袋による環境の問題を詳しく説明します。

  • レジ袋による陸の汚染
  • レジ袋による海洋の汚染
  • レジ袋による生態系への影響
  • 細かくなって人体へ

レジ袋による陸の汚染

日本は街中がきれいなこともあり、陸でのレジ袋の汚染といわれてもピンとこないかもしれません。風が強い日に宙を舞うレジ袋を見るくらいでしょうか。

日本ではレジ袋を再利用して捨てる人が多く、そのまま捨てないため、レジ袋が陸の汚染になりにくい環境ができています。

ごみ袋メーカー大手の「サニパック」によるとレジ袋を再利用していた人の割合は9割以上に上るというデータからもこれが伺えます[1]

しかし、外国ではレジ袋による陸の汚染が報告されています。

牛と羊の死因のうち推定70% がビニール袋を誤って食べたにことによるものとされる、モーリタニア・イスラム共和国のような国もあります。
テキサス州でも牛がビニール袋を喉に詰まらせて問題となりました。
また、バングラデシュ、カメルーン、フィリピンではビニール袋が下水を詰まらせ、洪水を悪化させたケースもあります。
ケニアではレジ袋にたまった水により蚊が繁殖し、マラリアの大発生を引き起こしたともいわれています。[2]

このように、世界中で陸での汚染がたくさん見られます。
そして、レジ袋による汚染は陸にとどまらず、海にも広がっています。

レジ袋による海洋の汚染

レジ袋による海の汚染は、日本の近海でも起こっています。

環境省が主導していた「みんなで減らそう レジ袋チャレンジ 」によると、大阪湾だけでもレジ袋が約300万枚沈んでいると推計されています[3]

世界に目を向けると、世界で最も深いマリアナ海溝にまで汚染は広がっています。
マリアナ海溝の水深10,898mの深海でもビニール袋が見つかっているのです[4]

マリアナ海溝に沈んだビニール袋
写真引用:公益財団法人ニッポンドットコム(海洋研究開発機構提供)

レジ袋による汚染は海の最深部にまで到達しているのです。
深海にまで達したレジ袋は、深海生物に絡まってしまうことがあります。レジ袋上に深海生物が付着しています。

更に、レジ袋に付着しすることで深海に侵入したイソギンチャクが発見されています。
本来イソギンチャクは柔らかい泥には付着できず、今まで深海にはいませんでした。

深海の生態系はまだ分からない部分が多いです。

しかし、イソギンチャクの例ひとつとっても、レジ袋が深海の生態系に影響を及ぼしていることがわかります。

陸でも海でもレジ袋による汚染が広がっていることが分かったと思います。
続いては、より直感でわかりやすい、生態系への影響をみていきましょう。

レジ袋による生態系への影響

ウミガメはビニール袋を食べてしまうことによる被害を受けやすい生物です。
クラゲが好物のウミガメは、海に浮かぶビニール袋をクラゲと見誤って食べてしまうことがあります。

ビニール袋は消化できないため、ある程度の量までは排泄されます[5]

高知県にある海遊館の研究所で2020年に保護されたアオウミガメは2ヶ月ほどかけて、1~2日おきに合計21gのプラスチックを排泄し続けました。

プラスチックがお腹に溜まっていたことにより、1ヶ月近く餌を食べなかったそうです。
海遊館のウミガメは保護されたため無事に回復しました。
しかし、保護されなかったら餓死してしまったかもしれません。
栄養失調になったり、成長しにくくなったり、腸閉塞になったり、腸壁に穴を開けたりして死んでしまう可能性もあります[6]

広大な海に、人間が捨てたプラスチックなど大した量ではないと思うかもしれません。

しかし、クイーンズランド大学の研究者が主導した国際調査によると、毎年海に流れ込むと推定されるプラスチックは400万~1,200万tに上ります[7]

そして、世界のウミガメの約52%がプラスチックを含むゴミを食べていることがわかっています。

プラスチックを含むゴミを食べてしまっているのはウミガメだけではありません。
海鳥を調査したところ60%以上がゴミを食べたことがあるという報告もあります。
このままでは、2050年には海鳥の99%がゴミを食べることになるだろうと予想されています。

ここまでは自然に生きる動物の問題を挙げてきましたが、レジ袋の悪影響には人間への影響も含まれます。

細かくなって人体へ

人間はウミガメのようにレジ袋を食べて影響を受けるのではありません。
分解の途中で細かくなったレジ袋から影響を受けます。

目に見える大きさだったゴミ袋は、太陽光の紫外線、海の波の力などにより小さく、細かくなっていきます。

そして直径5mm以下の微細なプラスチックごみになると、マイクロプラスチックと呼ばれます。更に小さくなって1μm(0.001mm)より小さくなると、ナノプラスチックと呼ばれます。

とても小さなプラスチックのため、ほこりや飲料水、食べ物にも混じっているとされます。
人間の便からもマイクロプラスチックが発見されていて、消化せずに排出されると考えられていました。

しかし、2022年に入り、健康な人間の血液からもプラスチックが発見されました[8]
レジ袋由来のプラスチックかは不明ですが、レジ袋と同じ種類のプラスチックであるポリエチレンも検出されています。

まだ研究は始まったばかりで人体への影響は不明です。
しかし、健康への影響は心配されています。

ここまでレジ袋が不適切に破棄された場合の問題をみてきました。
では、適切に破棄すれば問題とはならないと思いますか?
残念ながら、適切に破棄した場合であっても、環境に問題を生じさせます。

なお、マイクロプラスチックについて更に詳しく知りたい方はこちら「増え続ける海洋ごみ マイクロプラスチックを放置できない3つの理由」を御覧ください。

レジ袋を適切に処理しても起きる問題

レジ袋の適切な破棄方法は焼却処分です。

レジ袋は石油を素材とした「ポリエチレン[9]」というプラスチックでできています。
ポリエチレンは炭素と水素からできているため、適切に燃やせば有害物質はでません。
完全に燃えると炭酸ガスと水になります。

一見、環境に良さそうですが、燃える際に出る炭酸ガス、つまり二酸化炭素が問題となります。
二酸化炭素は地球温暖化への影響が大きいガスです。

また、化石資源である石油を使って作られている点も問題です。
製造にも、輸送にも、分別回収にも、焼却にも、石油を主としたエネルギーが使われます。

日本で1年間に使用されるレジ袋にかかるエネルギーを生産から処分まで計算して原油に直すと、約42万キロリットルになります。

日本で1年間に使用されるレジ袋にかかるエネルギーを生産から処分まで計算して原油に直すと、約42万キロリットルになります。
画像引用:経済産業省企画「なっトク、知ットク3R」

レジ袋は使うだけでも、環境問題を引き起こしているのです。

続いては「レジ袋有料義務化により環境問題が改善されたか」をみていきます。

レジ袋有料化による環境改善効果

結論からいうと、レジ袋が有料化されてからも、レジ袋による陸や海の汚染、生態系への影響は全く改善されていません。

なぜなら、世界を汚染しているレジ袋は分解に時間がかかるからです。
レジ袋の分解にかかる年数を知るために、レジ袋の素材である「ポリエチレン」について説明します。
なるべく簡単に説明しますが、少し化学の用語も出てきます。
苦手な方は、ななめ読みしてもらえると嬉しいです。

レジ袋はポリエチレンというプラスチックでできていて、以下の2種類のポリエチレンがレジ袋に使われます[10]

  • 低密度ポリエチレン(LDPE・以下ローデン)
  • 高密度ポリエチレン(HDPE・以下ハイデン)

なめらかな手触りのレジ袋はローデン、シャカシャカした手触りのレジ袋はハイデンでできています。

まずはハイデンより分解が早いローデンのレジ袋から考えてみます。

2020年のアメリカ化学会のデータによると、ローデンで作られた厚さ100μm(=0.1mm)のビニール袋の半減期の平均年数は以下となっています[11]

半減期とは重さが50%になる時間のことで、半分が分解されるのにかかる年数です。

  • 土に埋められた場合6年
  • 日光などがある陸上3年
  • 海の中4年
  • 日光などがある水面5年

環境によって差がありますが、半分に分解されるまで2~5年となっています。

ただ、日本のレジ袋は均一で性能が良く、薄く作られています。

上記データは厚みが100μm(=0.1mm)の場合ですが、日本で普段から使われていたレジ袋の厚さは10~30μm(0.01〜0.03mm)でした[12]

薄いということは、使われているポリエチレンが少ないということです。そのため、より少ない年数で分解されると考えられます。

とはいえ、日本でレジ袋の有料が義務化されてから2年しか経っていません。レジ袋有料化による環境改善の効果が出るにはまだまだ時間がかかるといえます。

「レジ袋は自然分解しない」は嘘

レジ袋による環境問題は、「レジ袋はプラスチックだから自然環境では全く分解されない」ことから起こるという説を目にします。
ここまで読んできた内容から分かると思いますが、レジ袋が自然分解しないという説は間違っています。

ローデンより分解速度が遅い、ハイデンで作られたレジ袋についても考えてみます。

海外ではビニール袋はローデンで作られ、一部のペットボトルなどがハイデンで作られているようです。
厚さが500μm(0.5mm)のペットボトルの半減期は、最も分解に時間がかる土に埋められた場合、約250年でした。

データは平均化するために、一般的な厚さをかけて計算してあるようです。なので、日本のレジ袋の厚さにあわせて割ってみます。

500μm(0.5mm)厚のペットボトルに250年かかるということは、10μm(0.01mm)のレジ袋は5年かかることになります。

単純に厚さに分解時間が比例するとは限りません。
しかし、日本のレジ袋ならハイデンで作られていても、5年程度で半分にまで分解される計算です。長い年数、全く分解されず形を保っているわけではないことが分かりましたね。

レジ袋が破棄される枚数が減っていけば、いずれは環境も改善していくと考えられます。

レジ袋有料化の間接的な環境負荷の軽減

レジ袋を使う人が減っても直接的な環境問題の改善にならないことを述べてきました。環境問題を借金に例えると、将来の借金予定額が減っても、現在の借金が消えるわけではないのと同じです。

現在の借金は自分でどうにかして返すか、他の人(環境問題の場合は自然)に肩代わりして返してもらう必要があります。
しかし、石油の浪費量が減ることで間接的には環境負荷の軽減になります。

2007年に発行された経済産業省企画の「なっトク、知ットク3R」[13]によると、日本で使われていたレジ袋は1年間で305億枚、305tに相当します。

1人あたりに換算すると300枚、年間3kg相当のレジ袋を使っていたということです。

日本で使われていたレジ袋は1年間で305億枚、305tに相当します。 1人あたりに換算すると300枚、年間3kg相当のレジ袋を使っていたということです。
画像引用:経済産業省企画「なっトク、知ットク3R」

しかし、日本チェーンストア協会の調査によると、2022年3月時点でのレジ袋辞退率は80.26%にも上りました[14]
日本チェーンストア協会は全国スーパーマーケット総販売額などを公表している小売業界最大の団体です。

レジ袋辞退率が80.26%なので、日本で使われるレジ袋は1年間で約244.8億枚減少した計算になります。
レジ袋にかかるエネルギーを原油に直すと、1年間で約42万キロリットルを消費していました。ですから、約33.7万キロリットル分の原油を節約できたことになります。

レジ袋は日本から排出される廃プラスチックのうちのほんのわずか、約2%といわれます[15]

そんなレジ袋であっても削減することで、25mプール(25m×12m×1.2m)約963個分がいっぱいになる石油量を浪費せずに済んだわけです。
ペラペラのレジ袋でも25mプール約963個分も石油が節約できるのですから、プラスチックごみ削減の伸びしろは大きいといえます。

環境に悪いレジ袋はもらわない・使わない

レジ袋の有料化によって使用する人が減った一方、より環境に悪いレジ袋も使われるようになりました。
「50μm以上の厚さがあるレジ袋」がレジ袋有料化対象外となったためです。
繰り返し使用できる可能性が高いことを理由に、50μm以上の厚さのレジ袋は今も無料で提供できます[16]

無料のレジ袋の種類
画像引用:2020年7月1日よりレジ袋有料化がスタートします。

10~30μm(0.01〜0.03mm)の厚さだった無料のレジ袋の厚さを、50μm(0.05mm)以上にした場合どうなると思いますか。

分解にかかる時間は長くなり、消費する石油の量は多くなり、燃やしたときに大気中に放出される二酸化炭素の量は増えてしまいます。

レジ袋を辞退して環境負荷を減らした人の協力を台無しにする可能性まであります。
例えば、10μmだったレジ袋を50μmにした場合、使用するプラスチックの量は5倍になります。
5人中1人が50μmのレジ袋を無料でもらって使い捨てたとします。すると、残りの4人がレジ袋を辞退してもトータルでは効果が無くなってしまう計算です。

もしレジ袋をもらってしまったら、ごみを入れてすぐに捨てたりせず、繰り返し袋として使って欲しいと思います。

レジ袋を当たり前に使っていたころは、レジ袋を使わない生活なんて思いもよらなかったかもしれません。

しかし、レジ袋は中川製袋化工株式会社が発明し、1956年に初めて販売を開始[17]したアイテムです。
普及したのは1970年代ですから、レジ袋を日常的に使うようになってからは、ほんの50年あまりです。

だからといって、50年前のレジ袋がなかった頃のライフスタイルに戻る必要はありません。
むしろ、この50年間で定着したレジ袋のある生活を、環境に優しく変化させていきましょう。
レジ袋は使わずマイバッグを常備し使用するのが、現代にふさわしいライフスタイルではないでしょうか。

この記事がレジ袋を使う人を一人でも減らし、環境負荷を減らす一助となれば幸いです。


[1] レジ袋の有料化 効果あった?
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20210630/416/

[2] The Downfall of the Plastic Bag: A Global Picture
https://grist.org/article/the-downfall-of-the-plastic-bag-a-global-picture/

[3] 「みんなで減らそう レジ袋チャレンジ」
http://plastics-smart.env.go.jp/rejibukuro-challenge/

n_b_updates/2014/update123byss: 30 year records of deep-sea plastic debris
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308597X17305195

[5] 「モルディブ諸島」水槽にアオウミガメがやってきました
https://www.kaiyukan.com/connect/blog/2022/01/post-2243.html

[6] Fatal attraction: Turtles and plastic
https://www.unep.org/news-and-stories/story/fatal-attraction-turtles-and-plastic

[7] World’s turtles face plastic deluge danger
https://www.eurekalert.org/news-releases/556004

[8] Discovery and quantification of plastic particle pollution in human blood
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412022001258#s0075

[9]  ゴミ袋って何からできているの?
https://www.sanipak.jp/media/faq/a8

[10] 「ハイデン」、「ローデン」の違いって何ですか?
https://www.sanipak.jp/faq/product/answer7.html

[11] Degradation Rates of Plastics in the Environment
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.9b06635

[12] 紙袋販売.net 「レジ袋の有料化」について
https://www.paper-bag.jp/topics/blog/1386/

[13] 経済産業省企画「なっトク、知ットク3R」
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/pamphlet/pdf/nattokushittoku3r.pdf

[14]日本チェーンストア協会の環境問題への取り組みhttps://www.jcsa.gr.jp/topics/environment/approach.html

[15] レジ袋有料化について
https://www.soumu.go.jp/kouchoi/substance/chosei/rejibukuro.html

[16] 経済産業省 2020年7月1日よりレジ袋有料化がスタートします
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/plasticbag_top.html

[17] 中川製袋化工株式会社 あゆみ
https://www.nakagawaseitai.co.jp/ayumi.html

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